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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
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天上万華鏡 ~地獄編~

INDEX|79ページ/140ページ|

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「私の攻撃をしのぎ、しかも反撃をしようとしない罪人は初めてだった。しかも罪人にもかかわらず。威光を発しやがった。正体を知りたいという純粋な興味関心が働いたわけだ。しかし、ここにあるはずのものがない。これは大きな陰謀が隠されている……私はそれを明かしたんだよ。貴様等と利害が一致するだろ?」
 上位の天使は往々にしてプライドが高い。ましてや自分の失敗を不用意に明かすことなんてあり得ない。それ故、ダニーの告白の真偽は明白だった。嘘で失敗したなど告白することなんてあり得ないからである。それ故に、不名誉な事実を明かしてまで歩み寄るダニーを受け入れないわけにはいかないと思うトロンだった。
「しかしダニー様、どうして私の名前をご存じなんですか? それ以前に私達を待っていたとは?」
 ダニーはトロンの言葉を聞くと、フッと鼻で笑い、自分のエンジェルビジョンを見せた。
「トロン、ここを見ろ」
 ダニーが指さした先には、「モニターの録画・視聴」というアイコンがあった。
「三等の天使から、庁舎や地獄のほとんどの部屋はこれで見ることができる」
「ということは……」
「そう、全て筒抜けだったというわけだ。貴様等の動きを邪魔しようとしている輩も当然見られていたと思うぞ。こんな種明かし、貴様等の敵だったらするはずなかろうが。どうだ? 信用したか?」
 ダニーを信用するのは当然として、三人はこれまでの言動が全て筒抜けだったことに驚愕した。秘密裏にやっていたことは、全て筒抜けになっていなかったのである。
「そう落胆するな。このメモリーディスク倉庫にはカメラが設置されていない。ここならいくら謀議をしても漏れない。今度からここを使うといい」
「……ご忠告ありがとうございます」
 落胆しながらもトロンは、自分達の知らない情報をダニーと共有することのメリットを実感していた。ここまで情報を提供するダニーを疑う余地は既にない。だったら、連携していくことが事をうまく運ぶ道だと直感した。だとしたら、自分もダニーに相応の情報を提供しなければ釣り合わない。そう考えた。
「ダニー様」
「何だ」
「先程の話ですが、ハルがジブリール様ではないかという証拠があるんですが、ご覧になりますか?」
「当然だ」
 ダニーの言葉を受け、トロンは、メモリーディスク倉庫に隣接している資料閲覧室に足を運んだ。資料閲覧室は、倉庫に保管されているディスクを専用のパソコンで見るための施設である。
「カミーユ。君に渡したハルのデータは持ってきただろうね」
「ああ、持ってきたぞ」
 そう言いながら、カミーユは圧縮地獄で流していたハルの歌が映されているディスクをトロンに手渡した。
「よし。あとカムリーナ君。ジブリール様の肖像画の画像は?」
「ああ持ってきた」
 カムリーナも手持ちのディスクをトロンに手渡した。
「ダニー様。こちらがハルの映像になります。ハルは歌を歌います。その時だけ、幻影としての天使が召喚されます。丁度今召喚されたのがそれです」
 ダニー達はハルが圧縮地獄で歌っている映像を見た。皆、トロンの言葉にあるように召喚されたテンに視線を集中させた。
「はい。一時映像を停止させますね。そしてこの天使を拡大してみます」
 トロンは、ハルの背後でバイオリンを演奏しているテンに照準を絞って拡大させた。そのため画面いっぱいにテンの映像が映された。
「次に現世文化省現世救済局に飾られているジブリール様の肖像画です」
 画面いっぱいにジブリールの映像を映した後、先程のテンの画像と並べるように配置した。
「見比べてください。瓜二つです」
「それはよくわかった。しかし、ハル自身がジブリール様の肖像画と似ているわけではないのだな? 幻影と似ていることについての貴様等の解釈は?」
 待ってましたとカムリーナが口を挟んだ
「ジブリール様の姿は現世文化庁の職員と一部の者しか知りません。だから、ハルがどこかでジブリール様の姿を見て、その姿に似せたというようなことは考えられません。つまり、ジブリール様の記憶を地獄に墜ちることによって消されたはずが魂に刻まれた記憶までは消せなかった。その影響が幻影に現れたと解釈しています。だからメモリーディスクを見てみようとという話に……」
「でもハルのディスクは存在しなかった……なるほどジブリール様の邪魔をしたい輩からすると余計メモリーディスクが存在しては困るわけだな。罪を犯してまでな。そう考えると合点がいく」
 ダニーにとっても疑問が次第に解けていくのを感じた。
「じゃあジブリール様が本当にハルなのか……その確たる証拠をつかむことと並行して、邪魔しようとしている勢力とは一体何なのか。それも明らかにせねばならないな。心当たりはあるか?」
 振り返るダニーと目があってしまったカミーユは心臓が止まる程にびっくりした。その邪魔しようとしている勢力とは自分なのだ。まるでダニーに見透かされているのではないかと錯覚してしまう程に、ダニーの目は鋭かった。
「私の知る限りでは、第五獄卒長のジャッジ・ケイ様でしょうかね……あまりにもしつこくハルをつけ狙っていますし……」
「ジャッジ・ケイねぇ……確かついこないだまで転生していたという刑務官だろ? うーん。もし奴だとしても、黒幕は別にいるな……ん? ジャッジ・ケイ? 確かこの倉庫に、ジャッジのディスクがあったな」
「そんなはずはない! この倉庫には、地獄に墜ちて、記憶を封印された罪人のものしかないはずです。ジャッジ様は罪人ではない。そのジャッジ様のディスクがあるはずは……」
 トロンは、ダニーに大声で訴えたが、全てを聞くまもなくダニーは退出し、そしてすぐに入室すると、一枚のディスクをトロンに手渡した。
「これはジャッジのディスクだろ?」
 ダニーの言うとおり、メモリーディスクのラベルには確かに「ジャッジ・ケイ」と書かれていた。
「確かに……しかし、どんな内容のものが収められているのでしょうか……」
「見てみればいいじゃないか」
 ダニーに促されるまま、トロンはジャッジのメモリーディスクをケースから取り出すと、パソコンに挿入した。
 暫くすると映し出される映像。その映像に皆驚愕した。