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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
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天上万華鏡 ~地獄編~

INDEX|76ページ/140ページ|

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「いいじゃんハル。だって凄かったもん。テンちゃんもハルもね。リストの目は節穴じゃないって事だよ。凄い人なんでしょ? リストってだからこそハルの凄さを分かったんじゃないの?」
「そんな……うん。分かりました。でも私は師匠になることなんてできません。その代わり同じ仲間として協力していただけませんか?」
 リストはゆっくり立ち上がり、微笑んだ。
「はい。分かりました」
「あのさ……聞きたいことがあるんだけど」
「何だい? スワン君?」
 リストはスワンをマゾ縛りした時の高圧的な目をしながら返答した。スワンはその目を見て萎縮し、笠木の後ろに隠れると、おどおどしながら続きの言葉を発した。
「リストが情報通だってのは、この幻影を使って?」
「その通り。気分が乗ったときだけたまに人が降るんだよ。まあ聴衆がいない中で演奏するって空しいだろ? 寂しさを慰めるのが最初の目的だった。でもな、この人間達ってよくできていてね、ジョニービルの壁文前に置いていたら、勝手に殷とローマ帝国の奴らが持っていったよ」
「ジョニービルの壁文?」
 聞き慣れない言葉に聞き返すマユ。
「ああ、入り口にローマ帝国と殷の勧誘文があるだろ? あれだよ」
「ああ、あれね」
「俺が作った幻影が見たこと聞いたことは全て俺に集められる。だから俺には筒抜けってこと。ゴーレムのことは、あれを作ったジョニービル警備隊の司令官でさえ知らないことみたいだな。だからあんな曖昧な情報になってしまったな」
「ということは、諜報のエキスパートってこと?」
 マユは目を輝かせながら聞いた。
「まあうまくやればそうなるな」
 こんな便利な能力をうまく使うと戦略の幅がかなり広がる。この力の生かし方次第では、こんなひっそり洞窟なんぞで生活する必要もないのではないかと不思議に思った。
「じゃあハル様、ここから出ましょうか」
「はい。また演奏に付き合っていただけますか?」
 そう言いながらテンを六芒星と共に帰していった。
「勿論。その天使様も一緒にね」
「リスト! ここから出るのか?」
「ああ、ハル様達を含めて戦略会議だろ? 俺抜きで戦略は成り立つか?」
「無理だね。つかどうしてリストがいるのにゲリラなんてみみっちいことをやってるの? うまくやれば、ローマ帝国だってつぶせるのに」
「それはごもっともです。だってリストはこの部屋から出たことがないのですから……」
「え? そうなの? 何で?」
 マユは素っ頓狂な声をあげた。
「簡単なことだよ。出る価値がないと思ったんだよ。俺は政治に全く興味ないからね。でもハル様に出会って考えが変わった」
 ハルの奇跡がここでも起こった。これまで幾度となくハルによって救われる者を目の当たりにしてきた皆は、改めてハルの素晴らしさを実感した。
 リストに促されて皆部屋から出ようとした。リストが仲間に加わり更に未来が明るくなった。しかしハルはどうしても納得がいかないことがあった。それはリストがどうして地獄に墜ちたかということだった。類い希なる音楽を生み出したリストが罪を犯すはずはないと思ったからである。
「リスト様……お尋ねしていいのか分かりませんけど……」
「何でしょう」
 口ごもるハルに対して、爽やかな笑顔で続きの言葉を促すリスト。
「リスト様はどうして地獄なんかに?」
「ああ、私は死んだ後、どうしても頭の中に残されていた曲を現世に残したくて……とても未練が残っていました。丁度そんな時に、死んだ私の声が聞こえ、私に体を預けてくれる者が現れたんです。ローズマリーという女性ですけどね。彼女の体を借りて曲を沢山書きました。でもそれはいけないことだったんですよ。憑依禁止法十二条違反。それが私の罪名です」
「憑依……でもそれって人間を苦しめるためのものじゃねぇんだろ? なんで罪なんだよ」
 リンが納得いかないという口調でリストに詰め寄った。
「そうだよ。でも罪は罪。俺はそれを簡単に割り切ることができなくてね。それで腐ってこの部屋にこもったという訳だよ」
 誰もがリストの行動に納得した。だからそれ以上だれも言葉を発しなかった。リストの告白を聞いてその悲惨な末路に言葉を失いながらも、相も変わらず笑顔でいるリストを見て皆涙を浮かべた。
「俺の湿っぽい話はもういいだろ? 気を取り直して戦略会議。ハル様、急いで行きましょう」
 リストの言葉に誘われながら皆部屋を後にした。
 このようにハル達が修羅地獄における立場を確立しようとしている頃、天界では、そのハルを陥れようと次なる一手が打たれようとしていた。場所は法務省刑事裁判局次長執務室。そこにいるのは部屋の主であるカロル・ジンガであった。
「ハルはバベルの塔を踏破したか……ジャッジめ、思いの外、役に立たぬ。所詮現世でぬるま湯に浸かっていた雑魚というわけか? それにしても腹に据えかねる。地獄を救うだと? 現世文化省が立ち入ることではない! ハル・エリック・ジブリール……必ず潰してやる」
 カロルは自分のエンジェル・ビジョンを手に取り、明らかに不快な表情を浮かべながら言葉を吐いた。カロルはハルの正体がジブリールだと確信していた。自分が管轄する地獄が他の省庁によって干渉されるだけでなく、今の体制の根本から否定しかねないジブリールの所業を許すことができなかった。
――――コンコン
「誰だ?」
「四等刑務官、カミーユ・ロダンです」
「入り給え」
 ドアをノックして入ってきたのは、カミーユだった。相変わらずカロルを前にして顔色を悪くしてふらふらしながら、カロルの前まで歩いて来た。
「かけ給え」
 着席を促されたカミーユは、視線を泳がせながらやっとのことで応接ソファーに腰を下ろした。
「さて、カミーユ君。そろそろ君の返事を聞きたいところだが、どうする?」
 カミーユは、三等法務技官への昇進を引き替えに、カロルの手足となって動き回るという命を受けるかどうか、返事をしなくてはならなかった。
 表向きは断ることができる形になっている。しかし、カロルの思惑を知ってしまった以上、断ったらそれ相応の圧力がかかるだろうことはカミーユには容易に想像できた。しかも、上司の決裁なしにハルの歌声を圧縮地獄に流してしまった負い目もある。それを盾に処分しようと本気で動いたら、自分の立場はどうなるだろうか。そんな恐怖がカミーユを追い詰めていた。
 カロルは、カミーユに飴と鞭を与えることで、意のままに動かそうとしていた。自分の手足となってスパイとして手懐けるかどうか、それはカミーユに対して、十分に考える時間を与えずに追い込むことで更に成功率を高めようとしていた。急いで判断させると、焦ってパニックになる。その混乱を狙うのだ。また、時間を与えると妙な入れ知恵が入る可能性がある。情報が漏れる前に決断させるのは大事なことだった。
「カミーユ君。まさかまだ決めかねているとは言わないだろうね。どう判断するのが賢いのか誰が見ても分かることではないか?」
「それは……そうですが……」