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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
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天上万華鏡 ~地獄編~

INDEX|64ページ/140ページ|

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「おい……いい加減やめろよ……仲いいやつ程けんかするって言うじゃねぇか。実は二人できてるんじゃねぇか?」
「それはない!」
 二人声をそろえて否定している様子を見た罪人達は、思わず吹き出してしまった。
「何だよそのリアクションは! 声が揃って相性いいじゃないかとか思ってないか?」
「そうだよ。全く。白鳥君とそんな噂立てられるぐらいならコキュートスに墜ちたほうがましだよ」
「マユそれは言い過ぎだろ……」
 微笑ましい会話が繰り広げられている中、ただ一人だけ険しい顔をしている者がいた。
「え? え? カラ……ス?」
「ハル? どうしたの?」
 マユは、目を大きく見開いて固まっているハルに駆け寄った。するとハルは声を出さずに黙って指を指していた。その先にはカラスの体に人間の体がついている奇妙な生き物が飛び立っていた。
「何あれ? 気持ち悪い」
 マユの言葉が聞こえたのか、カラスは空を飛びながらくるっと振り返ると、ニコッとしながら二人を見つめ、再び飛んでいった。
 カラスは、更にスピードを上げ飛んでいった。行き着いた先は、殷の城。更に奥にある仁木の屋敷だった。
 地面に降り立つと、カラスは完全に人間の姿に形を変え、平然と歩いていった。屋敷入り口の門まで来ると、首にかけたカード状の入館パスをかざした。
――――ピッピッ……プシューーー
 という音と共に結界が解除された。
 仁木の屋敷は、以前の持ち主である紂王の時と違い、機械を導入することによって、近代的なシステムに変貌していた。
 カラスは、仁木の前まで歩くと、静かに跪いた。仁木はかつて紂王が座っていた玉座に腰掛け、カラスをじっと見つめた。
「仁木陛下。陛下の仰る通りの特徴をもつ輩が入獄致しました」
「カラスよご苦労だった。早速その者達の映像を私に示せ」
 かつての姿と同じくカラスと呼ばれる男は、仁木に促されるがまま、一枚の紙を手に取ると、目から光線を出し、ハル達の姿を投影した。その画像が写真のように転写されると、それを仁木に渡した。
「春江……ようやく会えるんですね」
「はい? 春江とは誰の事ですか陛下」
「いや、こっちの話だ。紂王! 来たまえ」
 屋敷の奥から、以前より太った紂王が、大きな体を揺らしながらやってきた。
「仁木陛下、一体何でしょう」
「紂王、妲己を出し給え」
「え? どうしてですか?」
「四の五の言わずに出し給え」
「へい。出でよ妲己!」
 紂王の背中から、九尾の狐妲己が出てきた。
「いやーーん。お久しぶり、紂王ちゃま。それに仁木ちゃまも」
「仁木ちゃまはやめてくれ」
 妲己の不思議なテンションについていけない仁木は思わず抗議の声を漏らした。
「仁木ちゃまのことよりも、紂王ちゃまのことをおはなちしようとだっきちゃん」
「ちっと? ちっとちてるのね、紂王ちゃま。きゃわいいわ」
「妲己君。ここまで来なさい」
 二人の世界を見物するために呼んだのではない。そんな思いから、仁木は早々に二人を引き離し、妲己を近くに呼んだ。
「仁木陛下の頼みとあっても妲己をあなたに差し上げることはできませんぞ!」
 そう言いながら発光を始めた紂王。千手観音に変身する前兆であった。
「紂王よ。二分だ。だから光を抑えろ」
「やーーん。紂王ちゃま。またちっと? しつこいちっとつる人キライ。ほんのりちっとはきゃわいいけど、しつこいちっとキライ」
 膝をついてうなだれる紂王。対して妲己は、目を輝かせながら仁木の側まで近寄っていった。
「仁木ちゃま。あれくれるの?」
「ああ、だから呼んだんだ。カラスよ、例のものを」
「は。かしこまりました」
 カラスは一旦引っ込むと、バレーボール大の桃を盆の上に乗せて妲己の前まで歩いて来た。
「君の大好きな仙桃だ。欲しいだろ?」
「もちのロンだよ。にゃにしゅればいいの?」
「ジョニービル勧誘壁文まで行き、この三人を始めとする罪人全てを都まで連行せよ」
 カラスが作成したハル達の写真を見せながら説明した仁木だったが、
「むちゅかちいことわかんない」
 と言う妲己にそっぽを向かれた。
「え? カラス……私の言葉は分かりにくいものだったか?」
「いえ、陛下のお言葉は大変明瞭なものでしたよ。要は妲己が阿呆なのかと。阿呆にも分かる言葉で言わねばなりませぬ」
「じゃあもっと簡単に言おう。この者等とその仲間をここまで連れてこい。分かったか?」
「あい。初めからそういやよかったんだにょ。あいりょうかい。だから桃!」
「カラス。桃を」
 仁木に促された通り、カラスは手にした桃を妲己に渡した。妲己は恍惚とした表情で手に取ると、優しくさすりながら、その匂いに酔いしれた。次の瞬間大きく口を開けると、一口で桃を平らげた。
「あーん。おいちいわ。おいちい。ちょうこうふんだわん」
「私の指令通りに紂王を」
「りょうかい!」
 と言い残すと、妲己はうなだれている紂王に甘い吐息を吹きかけ、耳元で妖しく呟いた。
「紂王ちゃま。出陣だわん」
「だっきちゃんのお願い何でもきいちゃうぞ! 出陣じゃ!」
 勢いよく去っていた二人。それを唖然とした表情で見送る仁木とカラスだった。
「陛下、紂王に任せて宜しいのですか?」
 心配するカラスだったが、
「なあに、紂王一人で千人の戦力だ。なんせ千手観音だからな」
「しかし、扱いにくいのでは……」
「桃さえ渡せば思うがままだ。いいかカラス、人にはな適材適所というものがあるんだよ。上に立つ者の才覚は、その適材適所を見抜けるかにかかっている。紂王にとっての適材適所が今の任務というわけだよ」
「なるほど……それで陛下の仰る三人は何か特別な人物なのですか?」
「ああ特別だ」
 意味深な言葉を前に続けて聞きたいと思ったカラスだが、仁木のいつも以上に何か思い詰めた表情を見ていると言葉が出なかった。聞いてはならない何かを感じたからである。
「カラス、ご苦労だった。もうよい退け」
「はっ!」
 カラスは小さく頷き、仁木の屋敷を後にした。
 かくして、ローマ帝国ジョニービル辺境警備隊と紂王を将軍とする殷軍の両軍が同時にハル達を襲おうとしていた。
 史上最悪の危機を目の前にしながらも、そんなこと知る由もないハル達は未だに緊張感に欠ける会話をしていた。
「カラスの顔が人間?」
 スワンは、首をかしげながら呟いた。
「白鳥君、私の言うこと信じられないの? 確かにいたの! そして私達の顔を見ながら笑ったんだからね」
「うん……本当だよ」
「ハルちゃんが言うんだったら本当だろうけどなぁ」
「どうしてハルだったら信じるんだよ!」
「二人共、本当に仲いいんだな。喧嘩ばかりだからな」
「リンちゃんさ、そうやって言えば言い合いが収まると思ってない?」
「リンちゃん!? 俺そう言われたの初めてだ」
 どっとわく一同。リンは顔を赤らめながら俯いた。
「リンの兄貴! 変態のねえちゃんにかかっちゃ、さすがのあんたも形無しだな」
「ちげぇねぇや!」
 罪人達は、リンの珍しく恥ずかしがっている姿を見てにやにやした。
「茶化すんじゃねぇよ」
 一同穏やかに笑っていた。しかし、その笑い声に隠れるように、遠くからかすかな地響きが聞こえてきたのをスワンは聞き逃さなかった。