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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
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天上万華鏡 ~地獄編~

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 一方、紂王の館では、未だ紂王と仁木のにらみ合いが続いていた。
「そちが仁木とやらを仕留めよ」
 指名された側近はゆっくりと立ち上がると、仁木と向き合った。
「私の名は……」
「出でよサラマンダー!」
 側近の名乗りが終わるのを待たずして、仁木は術を発動させた。側近の頭上に炎の六芒星が瞬時に描かれると、その中からサラマンダーが出現し、側近の体に降り立った。このサラマンダーは別室で召喚されたもので、それが転送されたのである。
「名を名乗る必要はない。君はすぐに消えるのだから」
 仁木の呟きと時を同じくして、側近の叫び声が響き渡った。あっという間に側近を焼き尽くすと、力なく倒れていった。
 全長数十メートルにも及ぶ巨大なサラマンダー。獣の雄叫びをあげながら、暴れていた。炭になるまで焼き尽くされた側近。暴れるサラマンダー。両者を目の前にして、皆一瞬静まりかえると、次の瞬間、悲鳴を上げながら、その場から逃げ出した。
 残るは紂王のみ。
 紂王は、このような事態になっても、我関せずといった様子で、仁木とは別の方を眺めていた。
「静かになったのう。でも地獄の業火は高くまで上り詰めるが故に、またそれもまた地獄の様相に相応しく、朕の頬を温める……か。それもいささか風流よの」
「紂王よ。頬を温めるのみで終わるはずもなかろうが。貴様は地獄の業火で焼かれるのだ!」
 仁木は紂王に近づこうと、ゆっくり歩き出した。サラマンダーもまた、仁木の動きに合わせるように、紂王に近づいていった。それでも紂王は動かない。立つこともなかった。
 仁木と紂王を隔てる酒の池。仁木はそれを避けることなく入っていった。サラマンダーが池に入ると、
――――ジューーーー
 と、酒が蒸発する音が響いたが、サラマンダーの火力が衰えることはなかった。
 もうすぐ紂王の玉座の側に近づこうとした頃、やっと紂王に動きがあった。
「妲己(だっき)よ朕の前に姿を現せ」
 そう紂王が唱えた瞬間、紂王の背中から、妖艶な女性、それでいて九つの尾を携えた妖怪が現れた。その妖怪の髪は、金髪にして腰まで長く、細面で目はつり上がっており、この世のものとは思えぬ風体でありながら、男性を虜にするような怪しい眼力があった。
 また、その妖艶さを象徴するような甘い匂いを発散させ、敵である仁木を惑わしてしまいそうな程の色香を発していた。
「紂王ちゃまぁぁぁ。何をちゅればいいんでちゅか?」
「何もしなくてもいいんでちゅよ。ちんのちょばにいてね」
「やーーん。ちゅおうちゃま。だっきうれちい!」
「しょうか。しょうか。ちょんなこといってくれりゅとちゅうおううれちい」
「は? 紂王……? 罠か?」
 仁木は自分の理解を超える二人のやりとりをどう解釈すればいいのか苦悩した。そのため、サラマンダーに攻撃させるタイミングを見逃してしまった。しばし身動きがとれない状態が続いた。
 仁木の懸念をよそに、紂王と妲己は、さらにエスカレートしていった。
「紂王ちゃまぁぁ。だっきねぇ、ほちいものがあるんだー」
「にゃんだ? いってみて?」
「つけもの」
「ちゅけものかぁ。そんなしぶいものにゃににちゅかうのかな?」
「紂王ちゃまの頭にのせて……ちょんまげって」
「ちょんまげかぁ、それはめいあんだにゃぁ。ん? ちょんまげってにゃんだい?」
「じぱんぐの帽子よーー」
「つけものがぼうしかぁぁ」
「何かの呪文か? 何が召喚されるのか?」
 仁木は意味不明なやりとりを前に、それは召喚呪文ではないかと思い身構えた。サラマンダーもまた攻撃に備え、構えをとった。
「紂王ちゃまぁぁ。はやくつけものをちょんまげにしてよん」
「だっきちゅわん、しょんにゃにはやくできないよ〜」
「帝にゃのに? 紂王ちゃまって……よわいにょね」
 漬け物を要求する妲己に紂王は困り果てた。
「誰かおらぬか! 漬け物を用意せよ! 誰か!」
 この場には紂王と仁木しかいない。他の者は仁木のサラマンダーを前に逃走していた。
「仁木とやら、漬け物を用意せよ」
「は? 漬け物を用意? 何かの暗号か? 漬け物を頭に乗せて、ちょんまげ? それを私が用意するのか? は? は?」
 紂王の訳の分からない要求に仁木は意図を理解できず混乱の渦に落ちていった。そのため身動きがとれずにいた。
「妲己が所望しておるのだ! 早く用意せんかぁぁ!」
 怒り狂った紂王は、眩いばかりの光に覆われると、巨大な千手観音像に変身した。千個の腕には、マシンガンやバズーカー砲などありとあらゆる銃器が持たれており、いつ発射されてもおかしくない緊迫感があった。
 仁木はやっと紂王と戦えるとほっとした。先程までの理解に苦しむ紂王の振る舞いに惑わされずに済むからである。
――――ん? 紂王は妲己に頭が上がらないようだ。ならば……
 仁木は、攻撃の矛先を、紂王の幻影である妲己に定めた。
「空を切り裂き、檻となせ。空間限定!」
 と叫びながら手にした剣を妲己に向けると、妲己を中心とした一辺が四メートル程の透明な立方体が形成され、それが檻のような役目を果たし妲己を閉じ込めることに成功した。
 暫くすると、その立方体は地面目がけて勢いよく落ち、その中に閉じ込められた妲己もまた、同じように落ちていった。
 仁木は、空間の檻に近づき、妲己に剣を向けると、勝ち誇った顔をしながら紂王を見つめた。
「さあ最愛の妲己は我が手中にある。汝の行動如何では、開放するのもやぶさかではない。汝の返答は如何に」
 仁木は、妲己を人質にすることにより有利な交渉ができると思っていた。どんな反応をするのか様子ををみようとした。
「参りました!」
 紂王は即座に土下座をして降伏した。
「は? 紂王よ。本当にそれでよいのか?」
 あまりにもあっけない幕切れに驚いた仁木は、思わず聞き返してしまった。
「妲己は我が命なんです!」
「まあよかろう……」
 釈然としない仁木だったが、本気で降伏しようとしていることを理解すると、剣を鞘に収めた。
「紂王よ。この国の帝は誰か?」
「あなたでございます」
「左様。汝は私のことを何と呼ぶ?」
「仁木陛下と」
「よかろう」
 かくして、仁木龍生、一人の男により、殷は陥落した。