天上万華鏡 ~地獄編~
「『善人なおもて往生をとぐ。いわんや悪人をや』と言った人間がいたそうだな……善人でも天国に行けるのだから、悪人が天国に行けるのは当然だと……それは単なるパラドックスだと思っていたが、それを実存せしめるとはな。時として人間は天使をも勝る真実を語ることもあるということか? 人間も神の被造物。無駄なものを創造されるはずはない。そんな神の威光を肌で感じろと言われているかのようだ。虫けらにも意地はあるということだろうか? 肝に銘じておこう」
感慨深げにバベルの塔を眺めると、音もなく去っていった。インドラがいなくなったバベルの塔には、誰一人残されていなかった。静まりかえったそこは、確かに罪人全てが通過したということを証明するかのようだった。
天上万華鏡〜地獄編〜
前編
完
作品名:天上万華鏡 ~地獄編~ 作家名:仁科 カンヂ