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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
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天上万華鏡 ~地獄編~

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 ハルの言葉を聞いた陸軍十等兵達を含む皆がマユに注目した。ハルがそう言うのも無理はない。マユの手が慌ただしく動き、何やらサインのようなものを発しているからである。しきりに腕を使って円を描いていた。
「丸? え? 何?」
 マユの動きを必死に解読しようとするハルだが、全く要領を得ない。その様子に業を煮やした皆も一緒に思案した。
「OKという意味じゃないか? 丸というのはそういう意味もあるだろ?」
 一人の陸軍十等兵が叫んだ。
「おお、それだそれ! 天使さん、やるじゃねぇか」
「じゃあ、マユちゃん大丈夫ってことかな……」
「姉御! 多分そうだ。どうやって来るか分かんねぇが、兎に角大丈夫だってことだ」
「そうだな。そうでなければ、マユがそんなハンドサインをするはずないということか。貴様等の信じる心のままに成功を収めるとは」
 罪人と天使の両者が、同じくマユの吉兆を喜んだ。陸軍十等兵達も、罪人達が漏れなくバベルの塔を通過できることを心より願うようになってきた。心の通じた相手だからこそ、よい結果になって欲しいと思ったのである。
 しかし、陸軍十等兵達の役目は罪人達を攻撃し、バベルの塔通過を阻止することにある。陸軍十等兵達の行動は、明らかな職務怠慢であった。その結果自分達にどんな処分が下るのか皆分かっていた。しかし、罪人達を敵と捉え、容赦なき攻撃を加えることは最早できなくなっていた。
 自分達に待ち構えている苦難に恐れを抱きつつも、全力で罪人達を支えようとしていた。
「あ……何か聞こえる」
 一人の罪人が興奮気味に呟いた。
「本当だ。下から声がする」
 皆、塔の中央吹き抜けに駆け寄り、下を覗いた。すると、何かが上がっているのが見えた。
 スワンだった。
 錦鯉バイクを颯爽と乗りこなしているスワンは、後ろに十数人の罪人を乗せ駆け上がっていた。手には大きな袋を持っている。その中には、マユを始め、ジャッジに斬り落とされた罪人の頭が無造作に入れられていた。その袋は、首から流れる多量の血液に溢れていたこともあり、一見、猟奇殺人犯が死体を遺棄するために詰め込んだ袋を彷彿とさせる程のグロテスクな様相を呈していた。しかし、それとは対照的に、それぞれの首は助けられたという思いがに溢れるあまり、歓喜の表情を浮かべていた。
「ハルー! 復活だよー!」
 マユの首がハルに向かって叫んだ。
「マユちゃん! もう、心配したんだから!」
「てへ。油断しちゃった」
「マユはさ、頭だけになって上から降ってきてさ、『白鳥君、私をキャッチしてよ。落としたらぶち殺すからね』って笑顔で言うんだよ。怖いのなんのって」
 ハル達の側まで来たスワンは、開口一番マユに対する不満を吐いた。そして、錦鯉バイクに乗せた罪人を降ろすと、次は手にした袋から頭を本人の元に行って配り、頭と胴体が合体できるようにした。
「マユちゃん合体!」
 マユはおどけて何かのポーズをとりながら、頭と胴体を合体させた。
「ただいま」
 ニッコリしてハルと握手をしながら戻ったことを報告するマユ。
「おかえり」
 そして、涙を浮かべながらも無理矢理笑顔を作り、答えるハルだった。
「これで皆さん揃いましたね」
 ハルが、皆を見渡しながら声をかけると、一同歓声があがった。陸軍十等兵達も同じく喜んだ。その様子を、事情を知らないマユとスワンは不思議そうに見つめていた。
「ハル、どうして天使もここにいるの? ていうか、どうして一緒にわいわいがやがや?」
「天使の罠か?」
 スワンは、陸軍十等兵達に対して防御態勢をとった。
「スワン君違うよ。天使様は私達のことを分かってくれたんだよ。もう邪魔はしないからもうやめて」
「え? 俺が下に行っている間に何があったんだよ」
「そうよ。教えなさいよ。何か面白いことがあったんじゃないの? 黙っているなんてずるいよ」
 マユやスワンのために、これまでのいきさつを話した。ハルが塞ぎ込んでしまって動けなくなったこと。それを罪人達が励ましたこと。それで姿がきれいになったこと。天使達が攻撃しなくなったこと。ハルの歌によって天使達と心がつながったこと。時には陸軍十等兵達も話に割って入ってきて、自らの感動を熱っぽく語った。天使と罪人とが入り乱れて会話する様子はスワンやマユにとって異様なものだった。しかし、その事実こそが、ハルの話すいきさつを裏付けるものだった。
「じゃあ天使君達も仲間なんだね。いつか私が天使になったとき、一緒に働けるといいね。あんた達のように柔軟な天使と一緒にしたいもんだよ。天使ってみんな堅物じゃん。そんなの嫌いなんだよね」
「マユの言うとおりだね。同感同感」
 遠慮のないマユの言葉に陸軍十等兵達は、唖然とした後、笑いが吹き出た。痛快な物言いに清々しさを感じたからである。かつてインドラが感じたものと近かった。
「ならば、地獄を乗り越えて天国まで到達するがいい。私達もそれを待ち望んでいるぞ。まずは目の前の地獄を乗り越えることだ」
「あいあい、みんな同じ事を言うのね。分かったよ。んじゃみんな出発進行!」
「何白鳥君が仕切ってるのよ。すぐ調子に乗るんだから」
 久しぶりに見られた遣り取りに、皆、思わず吹き出してしまった。そして、スワンの言う通り、先に進みバベルの塔を踏破しようと心に決めた。
 一斉に走り始める罪人達。陸軍十等兵達も、また一緒に走り始めた。
「錦鯉のにいちゃんよ。あんたは錦鯉に乗ることができるのにどうして使わねぇんだ?」
「だってさ、あれ使ったら俺だけ卑怯じゃん。みんな同じ条件で行かないとね。まあ怪我とかして動けないやつが出てきたら、そいつだけあれに乗せるけどね。今のところそんなやついないし、使う必要ないね」
「にいちゃんって意外に義理堅いんだな」
「それはあんたらも同じ事だろ?」
「白鳥君って空気読めない人だから、私はあれに乗ると思っていたけどね」
「お前、いちいち俺につっかかるけど何でだ? もしかして俺に惚れてるな?」
「寝言は死んでから言いなさい」
「死んでいるんですけど?」
「もう! 二人とも!」
 マユとスワンが喧嘩して、ハルがそれを止める。いつもながらも遣り取りがまた続けられた。それをリン達はしみじみと眺めていた。この風景が見られている内は安泰だ。そう思ったからである。しかしお約束パターンにはまだ続きがあった。
「これでマユとスワンが合流して、ハマス組が復活した。それにしてもマユの毒舌は健在です。陸空軍十等兵の猛攻を単身でしのいだスワンでさえも、マユの毒舌にかかればひとたまりもありません。一体どれだけの大物をその言葉で沈めればいいのでしょうか?」
「報道官! お前の名は何だ! もう一回名乗れ!」
「カムリーナですが……」
「カムリーナ! ネチネチ私達の悪口言うんじゃないわよ。シローウィンに言いつけるんだから!」
「おぅ……」
 アナウンス室では、恍惚とした表情をしているカムリーナ。その表情を侮蔑の表情で眺めるトロンだった。
 何もかもがうまくいっていた。そして、タイムリミットがあと十日を切ったころ、ようやく天井が見えてきた。
「ゴールが見えてきた!」
「おお!!」