小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

天上万華鏡 ~地獄編~

INDEX|49ページ/140ページ|

次のページ前のページ
 

 なるほど、その手があったと、ハルは妙案を提示してくれたリンに堅い握手をすると、早速テンを召喚した。六芒星の中から現れるテン。いよいよアナウンス室にいる二人が待ちに待ったハルの歌が始まる。

「私は大地を駆け巡り
 燦々と輝く太陽に
 大事な夢を語ります

 私は一人だと思ってた
 私は縛られていたと思ってた
 でも違ったの

 太陽は私をつないでくれた
 大地を照らし
 草花を育み
 羽ばたく鳥に歌を教えてくれた
 みんなが私に語りかける
 光をもっている仲間同士
 姿は違っても中身は同じ
 
 孤独だったのは
 私の独りよがりだった
 知らなかっただけ
 みんな同じ
 みんな仲間
 みんなが私に語りかける

 私は欠片
 あなたも欠片
 みんな一緒ではじめて命
 だから私だけでは不完全
 それにやっと気付いたの」

 久しぶりに聴くハルの歌を、罪人達は恍惚とした表情をしながら聴いていた。誰も言葉を発しない。まるで、傷つき疲労の溜まった体が全て癒えたと思ってしまうほどその心は充実していた。そして、陸軍十等兵達はどんな反応をしているのか気になった罪人達は、ハルの歌を聴きながらも時折、陸軍十等兵達にも目を遣った。
 陸軍十等兵達は、力なく剣を落とし、ハルの歌に集中すると、何やら考え事をするかのように渋い顔をしながら俯いた。
 理屈ではない。魂のほとばしりを直接受け止めた陸軍十等兵達は、ハルの思いを生々しく魂にぶつけられ、同じく理屈を超えた理解に到達した。
 ハルの歌で、何か分かったのではない。むしろ何も分からない。しかし、ハルの思いを魂でとらえた。理屈を超えた理解。魂の共鳴。天使達は途端に混乱した。
 ハルを苦しめようとしている自分達天使のために魂を賭けて訴えようとしている。自分が助かりたいなど自己本位ではない。まさしく敵である天使のために……
 訳も分からず陸軍十等兵達は涙を流した。その理由は誰一人分からない。兎に角心が満たされ涙が出た。
「あ……あ……私にこの方を傷つけることは……」
「そうだ……できるはずもない。畏れ多い」
 そう陸軍十等兵達が呟くや否や、ハルは自分の気持ちが陸軍十等兵達に伝わっているという実感から、更に歌声に力を入れた。すると、罪人達に微弱な威光が現れたように、ハルの体からも威光が放たれた。
 神々しいその姿に、陸軍十等兵達は思わずひれ伏しそうになる体をぐっと押さえ、やっとの思いでとどまった。驚愕の光景を見せられ、混乱の渦に巻き込まれた陸軍十等兵達。しかしそのような状況に追い込まれたのは、陸軍十等兵達だけではなかった。当然、アナウンス室にいる二人は更なる衝撃を受けていた。
「ハル・エリック・ジブリール様だ!」
「ハルの歌はやはりジブリール様と言える程のものなのか?」
 二人は興奮しながら叫び合った。
「いや、歌はどうだか分からんが、ハルから召喚された天使。あれはまさしくジブリール様」
「え? ハルが召喚した天使が?」
 トロンは思わぬところにジブリールの手がかりになったことに驚いた。テンはあくまでもハルが虚無地獄を通して作り上げた幻影である。テンに実体はない。それがジブリールと容姿が一致するという事実をどのように解釈すればよいのか分からなかった。
「あれは、ハルが作り出した幻影だぞ?」
「そんなことは分からない。兎に角、あの天使はジブリール様だ」
「どうしてジブリール様だと断定できるんだ? あんな姿をしている天使なんてたくさんいるだろ?」
「よく見ろ。まずは羽根が六枚あるだろ? 六枚羽根の天使は、セラフ……つまり、ミカエル様、ガブリエル様、ウリエル様、ラファエル様しかあり得ない」
「あ……そうか」
「それに、桃色の髪に青い目。身体的特徴もジブリール様だ。肖像画を見ているから確実だ」
「仮にハルの幻影がジブリール様だとしてだな、どうして幻影として現れるんだ? 幻影を作ったハルがジブリール様だということか? いや、ジブリール様をかたどって幻影を作ることは誰にでもできる。しかし、天使でも一部の者しか知らないジブリール様を作ることは……」
「分からない……でもやっと見付けた。ジブリール様……」
 カムリーナは感極まって涙を浮かべた。
「転生することにより封印された記憶……地獄に墜ちて更に消された記憶。しかし魂に深く刻まれたジブリール様としての記憶が、幻影として生々しく現れた。そういうことか?」
「分からない……何も分からない。でもハルとジブリール様は関係がある。それだけで十分だ。私も君と一緒にハルマニアにならざるを得なくなったということか?」
「ハルマニア……その言い方はやめてくれよ。まあ兎に角、これでハルに注目する必要が高まったわけだ」
「ああ」
 これで、ハルを取り巻く激動の世界にカムリーナも飛び込むことになった。カムリーナは、これまで飽くなき思いで追い続けていた憧れの人の手がかりを得ることで、失神しそうなほどの感動を覚えていた。しかし、図らずともこれより進む道は修羅の道。今の感動に見合うものなのかカムリーナが判断するのはまだ先のことである。
 その頃、バベルの塔内部では、歌の一番が終わり、テンによる間奏が弾かれていた。テンは、ハルに目配せをすると、それを察したハルは、二番を歌い始めた。

「私は大空を羽ばたき飛んで
 夜空に煌めく満月に
 無垢な愛を捧げます

 私は嫌われていると思ってた
 私は籠の中にいると思ってた
 でも違ったの

 満月は私を解き放ってくれた
 水面に映し
 闇夜を照らし
 私の唇に紅をぬってくれた
 みんなが私を大空に誘った
 檻を作ったのは私自身
 動かなかったのは私自身

 不自由だったのは
 私の独りよがりだった
 怖かっただけ
 籠は私
 檻は私
 一歩前に出るのが怖かったの

 私は踏み出したかった
 あなたも踏み出したかった
 一緒に踏み出てはじめて自由
 だから怖がるだけでは不幸なまま
 それにやっと気付いたの」

 ハルとテンは曲が終わると、天使達に深々とお辞儀をした。その後、ハルは、六芒星と共に帰っていくテンを見送ると、陸軍十等兵達を黙って見つめた。言いたいことは全て伝えた。そんな思いから、付け加える言葉は不要だと判断したためである。同じく他の罪人達もハルの思いが伝わってくれることを祈りつつ、陸軍十等兵達をじっと見つめた。
 陸軍十等兵達は、手にした剣を次々と鞘に収めた。中には迷っている者もいたが、他の者の動きを見ると納得した表情をしながら、後に続いて鞘に収めた。そして無言のまま、道を空け、先に進むように促した。
 陸軍十等兵達にとってハルに言いたいことは山ほどあった。法や体裁に縛られるあまり、正義を純粋に追究することがおざなりになっていた。それに気付いていながらも行動できなかった自分達をハルが後押ししてくれた。感動と共に感謝の念、様々な思いが交錯した。しかし、それを発する事はできなかった。
 それを言ってしまったら、天使が罪人に屈すること。それ以上の事をしてしまったらもう引き返すことができない所まで来てしまう。ぎりぎりのところで、踏みとどまっているのである。しかし、だからといって、攻撃をして行く手を阻むことはできない。