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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
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天上万華鏡 ~地獄編~

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第8章「断頭台への行進」



 ハル達がバベルの塔に来て五ヶ月が経とうとしていた。罪人達の腕にある残り時間を示す時計は刻々とその数を減らしていたが、マユのカードによるインドラの助けにより着実に進めていった。そして、次々と他の罪人達と合流し、一大連合が形成されつつあった。
 ハルはこのまま全ての罪人と合流し、バベルの塔にいる全員で通過しようとした。しかし、そう考えると大きな問題が発生した。
「姉御! オラの仲間が雷に当たって落ちたんでさ、まだ上がって来てねぇんだよ。このままじゃやばいんでさ」
「そうだ。落ちた落ちた。俺等は変態のねぇちゃんに助けてもらっているからいいけどよ。仲間はそうはいかねぇ。姉御助けてくだせえ」
 姉御とはハルのこと。圧縮地獄での出来事を受けて、彼等なりに敬意を表した呼び名だった。
「変態のねぇちゃんて誰のこと言ってるのよ!」
 圧縮地獄でハルに助けられた罪人達が、仲間の事を思って頼った言葉だが、思わぬところでマユの逆鱗にふれたと思われたが……
「よく分かっているじゃない。ここまではっきり言われると逆に清々しいものだ」
 逆に肯定的な言葉として受け止められていた。
「こいつ……不浄の子というより、腐っている女だな……腐女子……」
「あら、白鳥君にしてはいいセンスだね。不浄って言われるのは流石に嫌だったけど、腐っている女子ってのは問題なし。これからは腐女子って呼んでね」
「こいつの価値観はいまいち分からない……」
「もう二人とも……」
 「だからよ、ねぇちゃん達の痴話喧嘩はいいからよ、仲間のこと助けてくれねぇか?」
 従来、罪人達は他人のことを気遣う余裕はない。それ程に追い詰められるからである。また、地獄に堕とされる程の魂である。善意を他人に向けるなんて考えられない。しかし、ハルの影響により、仲間を思いやり団結する価値を見出した。
 また、圧縮地獄でハルと共にしていない罪人達も、バベルの塔で皆を励ましながら駆け上がろうとしているハル達を見て考えが改まってきた。
 だからこそ、当たり前のように仲間を救おうとする言葉が出たのである。そしてハルならその言葉を受け止めてくれるだろうと信じることができたのである。
「そうですね……私達よりも下にいる人達って、私達が上っている時に落ちてきた人ってことだよね?」
「そうそう。でもそんなにいなかったような気がするけど……十人ぐらい?」
 たった十人でもどこにいるか分からない。途中にいればいいけど、底面で階段を上る気力をなくして立ち尽くしているかもしれない。ハルは、バベルの塔の一番下。底面にあたる場所まで誰かが戻らなくてはならないと思った。
「じゃあ私が、戻ります。ここから飛び降りれば、すぐですよね?」
 と言いながら、躊躇なく飛び降りようとした。それを多くの罪人達が止めた。
「おい! 何を考えているんだよ! 飛び降りちゃ姉御の体がバラバラになるじゃねぇか」
「これまで上ってきたのが台無しじゃねぇか! 俺は姉御にそんなことをしてもらいたくて言ったんじゃねぇぞ!」
 仲間を助けたいという思いがあったとはいえ、ハルにそこまでのことを要求したわけではなかった。ただ単に助けるための知恵がほしかっただけである。たとえ無理だとしても、皆で思案した結果なのだったら、どうにか納得することができる。
 五ヶ月間、マユのアイディアにより、特に天使からの妨害を受けることなく駆け上がってきたため、既に半分以上は踏破していた。だから、それを犠牲にしてまで助けてもらおうとは思っていなかった。
 しかし、ハルの行動は、罪人達の常識を遙かに上回るものだったのである。躊躇なく自分を犠牲にできるハルの姿に神々しさと怖さを同時に感じた。
「でも、そうしないと助けられないでしょ?」
「そうだねぇ、ハルだけじゃ心細いでしょ? 私も行くよ」
 マユもハルと同じく躊躇なくさらりと言った。
「お前等が行くのはいいけどさ、マユが行っちゃったら、インドラ様のあれがいなくなっちゃうぞ。俺が天使を攻撃してもいいんだったらあれけど……それでいいのか? ハルちゃん」
「それは困る……」
 罪人達は眉をひそめながら固まっていた。この者達の会話は一体何なのだ。罪人達の理解を遙かに超えた会話に呆然とするしかなかった。天使を攻撃することができるのに、あえてそれをやっていない。天使すらにも慈悲をかける。そんな常識はずれた存在が三人もいる。罪人達は、もしかしたらハル達と一緒に行動すれば皆でバベルの塔を通過できるかもしれないと本気で思うようになってきた。
「だからさ、俺が行こうと思うんだよ。ちょっとした裏技があってね、それを試そうかと」
「裏技?」
 ハルを始め、その場にいる皆がスワンの裏技に興味を示した。
「ああ、見てなって」
 と言うと、錦鯉を出す仕草である右掌を胸の前にかざすという動きをした。
「出でよ龍」
 お決まりの言葉と共に、掌から錦鯉が飛び出した。
「龍? 錦鯉じゃねぇか」
 以前のマユと同じ突っ込みを罪人達もした。
「それ言わない!」
 スワンは相変わらず格好良く決まらない自分の振る舞いに対して、肩を落とした。
 スワンの掌が出てきた錦鯉は、結界の時に出てきた小さなものではなかった。スワンの体と同じぐらいの大きなものだった。
「我の望む形に変形せよ」
 と唱えると、錦鯉が変形を始め、水上バイクのような乗り物に姿を変えた。
「どうだ。これに乗って降りていったら、行きたいところに行けるってことさ。これでまだ下にいる奴らを拾ってくるよ」
「おー、すげーじゃねぇか!」
「にぃちゃん何者だ? びっくりだよ」
 罪人達による賛辞が飛び交ったが、
「変形できるんだったらよ、錦鯉じゃなくて、龍の形に変形すればいいじゃねぇか。自分で龍って言ってるんだからよ。どうして錦鯉なんだよ」
 もっともな罪人の言葉が突き刺さる。
「うぐ……できないんだよ! 俺だって頑張っているんだよ! そんなこと言わないでいいじゃないか!」
 途中で涙目になるスワン。
「頑張っているのに可哀想な白鳥君」
それを見ながら、不気味にニンマリしながら慰めるマユだった。スワンは、上目線で見られていることに悔しさを滲ませた。
「俺のことを格好悪いと思ってるだろ?」
「そんなことないわよ。ホッホホホホホ」
「マユちゃん……」
「いつまでもへこんでなくて、早く行きなさいよ。後のことは、私とハルでどうにかするから」
「スワン君、気をつけてね」
 ハルの言葉で元気になったスワンは勢いよく錦鯉バイクに乗り込んだ。
 丁度その頃、報道官カムリーナが実況を始めた。カムリーナは、四六時中バベルの塔に常駐して実況をしているわけではなかった。実況訓練は職務能力向上だとはいえ、通常業務を疎かにしてまでできることではない。それはカムリーナと一緒にハルとジブリールの関係を突き止めようとしていたトロンにも言えることだった。
 トロンはできるだけカムリーナと行動を共にしようと都合をつけたが、コロポックルの水を通過する罪人はかなり多く、休暇を取るのは困難だった。
 そして今、カムリーナが実況を始めようとしている時、運良くトロンもアナウンス室に立ち寄ることができた。