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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
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天上万華鏡 ~地獄編~

INDEX|27ページ/140ページ|

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 カムリーナの思わぬ参入により、淡々と事態が推移していくはずのバベルの塔が、ドラマチックに演出されることになった。
「空軍幕僚長、インドラ様による、インドラの矢。このバベルの塔に挑戦している罪人は運が悪い。インドラの矢とは、一発で国を滅ぼすほどの威力をもつ、超破壊兵器です。巨大な稲妻から枝分かれしていき、自動追尾でターゲットを追跡、そして激突する。枝分かれは数万にも及ぶと言われています。実戦のための試し打ちとはいえ、想像を絶する威力だと言われています。ただいまの攻撃で、罪人全てに攻撃が及んだ。さすがに罪人軍は全滅か!」
 カムリーナは早速実況を始めた。この実況により、天使の情報や場の状況が分かりやすくなる。ハルとマユはカムリーナの実況を聞きながら、自分を取り巻く状況が理解できつつあった。しかし、それは、インドラサイドにとっても同じ事だった。
「おーーと! 全滅ではなかった。インドラの矢を結界によって防いだ罪人がいた。その名もハルとマユ! 更に、結界をはったのは、地獄に投獄されて五十年にも満たないルーキー! 隠れた逸材の誕生だ! 皆その名を胸に刻め! ハルだ!」
「おいおい、あいつ何言っているんだよ。目立つじゃん……」
 マユがそう言うのも無理はない。この実況はインドラの耳にも入っているはず。仕留めきれなかったと知ったら、自分達を集中して攻撃する恐れがあったからである。
 直後、二人の前に男が現れた。その男は、黒の長袖シャツにデニムのズボン。髪は金髪で肌はかなり白かった。耳にはピアスがあり、ヒップポップ系の姿をしていた。
 地獄に似つかわしくない奇っ怪な格好に二人は警戒感をあらわにした。
「あんたは何者? 天使なの?」
 その言葉に、男は慌てふためき、後ずさりをした。
「おいおい。勘違いするなよ。翼のない天使がいるわけないだろ?」
「いいや、そう言って騙す天使多いんだから!」
「信じてくれよ〜」
 泣きそうな顔をしながらうなだれる男。その男を見たハルは、何か懐かしい気持ちになった。覚えていないけど、以前会ったことがあるような、そんな感覚だった。だからこそ、この男は信頼できるのではないかと、特に根拠はなかったが何故か心の底からそう思った。
「マユちゃん……この人天使様じゃないよ。多分信用できる……」
「え?」
 思わぬ言葉に振り返るマユ。何故そう思うのか詳しく聞きたいところだったが、ハルの自信に満ちた表情を前に、そんなことは愚問だと思い、口をつぐんだ。
「ハルがそう言うんだったら、信じてやろう。それで、一体何をしに来たの?」
「ああ、まずは自己紹介をするな。俺の名前は、スワン・ソング。ぶっちゃけ言えば白鳥の歌。何気に気に入っている。変だって言ったらぶっ殺す」
「ぶっ殺すって……あんた喧嘩売りに来たの?」
 マユの冷めた突っ込みに我に返ったスワンは、
「いやいや……そうじゃなくて!」
 ひたすら低姿勢で謝るのみだった。
 二人のやりとりを見つめるハルだったが、その脳裏には「スワン・ソング」という言葉が駆け巡っていた。この言葉、聞き覚えがある。何か大事な記憶だったはずだ。そんな思いから、暫し呆けてしまった。
 ハルの思惑をよそに二人は言い合いを続けていた。
「その白鳥君が何しに来たの?」
「インドラの矢を防いだんだろ? だったら共同戦線をはれないかってね」
「あんたも防いだんじゃないの? 無傷だし。なのに実況されないなんて卑怯だよね」
「たまたまなんじゃね? 報道官ってやつも万能じゃないってことだね」
「おーーっと、インドラの矢による生存者をさらに確認することができました。その名もスワン・ソング。鯉に結界壁をつくらせるという何ともふざけた方法でしのいだ! 彼はかつて圧縮地獄において、圧縮地獄システムをその鯉によって破壊し通過した男だ! それにより器物破損と公務執行妨害の罪が加算された模様! 現在、要注意人物として、排除命令が下っている! 彼の運命やいかに!」
「おいおい待ってくれよ。しゃれになんねーよ……」
「……報道官も意外に万能だったようだね……それに更に詳しいプロフィールまで……って、私達なんかよりも目立ってるじゃん。一緒に行動したら私達まで狙われるんですけど」
「いやいや、力ある者同士、手を組んだ方が何かと便利だって」
「こんなチャラい男と一緒にいるのやだ! ね? ハルもそう思うでしょ?」
「チャラいって……何を言うんだ! 俺はいつだって真面目だぞ!」
「けっどうだか?」
「キーーー!! お前はそう思わないだろ?」
 ハルに助け船を求めるスワン。しかしハルはまだ「スワン・ソング」という言葉を自分の記憶の中で探していた。自分の世界に入り込んでいたハルは、スワンの言葉で我に返り、あたふたしてしまった。
「ハル困ってるじゃん。大体、初対面の人に「お前」なんて言われる筋合いはありません!」
「あなたに言っておりません」
 嫌みったらしく言うスワンにマユは嫌悪感をあらわにした。
「こいつむかつく! 行こう、ハル」
 ハルの手を取り、先に進もうとするマユ。ハルは、その手をそっと握り替えしながら足を止めた。
「マユちゃん。せっかくお知り合いになったんだから、一緒に行こう。それに可哀想かな?」
 ハルの言葉に、軽くため息をつきながら、微笑むマユ。一方でスワンは満面の笑みを浮かべながらハルを見つめていた。
「もうハルってば、誰にでも優しいんだからーでもそんなところが萌えるけどね」
「ハルちゃんっていうの? 俺スワン・ソングです」
 と言いながら、握手を求めた。
「よろしくお願いします。ハルです」
 ハルもスワンの求めに応じ、握手をした。その瞬間、スワンの動きが止まった。ハルとの握手……以前同じ光景があったような。そんな思いがスワンの脳裏をよぎったからである。ハルも同じ思いだった。記憶はないけどお互いを知っている。そんな思いを確信した瞬間だった。
 二人の心中でそんな事が繰り広げられている事を知らないマユは、二人見つめ合って動きを止めている状況が不満だった。
「何見つめ合ってるの? 一目惚れってやつ?」
 その言葉を聞いて、我に返ったハルは、凄い勢いで手を離し顔を背けてしまった。スワンも訳も分からず動揺してしまっている。
「スワン・ソングです。宜しくお願い致します」
 その動揺を隠すように、極端にかしこまった口調でマユに対して自己紹介をしてしまったスワンだった。
「何? 何か企んでるの?」
 血管を浮かべ、手を振るわせながら握手を求めるスワンに警戒するマユだった。
「企んでねーよ! 何だよその言いぐさは!」
「何キレてるんだよ! こいつきもーーい」
「あのーー喧嘩やめてよ……」
 半泣きになりながら仲裁するハル。その姿を見て二人は慌てた。
「ハル……泣かないで……もう泣き顔もかわいいんだから〜」
「ハルちゃん! レディの前でみっともない真似をしてしまって……」
「ケッ……レディだって……鳥肌立つんですけど!」
「なにぃぃぃ! お前ぶっ殺す! かかってこいやぁぁぁ!」
「望むところよ見てなさいよ〜」