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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
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天上万華鏡 ~地獄編~

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「私は、不浄って言われて馬鹿にされてきたけど、後悔してないから。死刑になっても、地獄で痛い目にあっても負けないから!」
「マユちゃん……」
 マユの瞳が鋭く光った。それはまるで、ハルが時折見せる凛とした瞳のようだった。ハルは、マユの言葉に言葉を失いながらも、どこか自分の似ている雰囲気を感じていた。
「だから、そんな目で見ないでね。笑い話にしたいんだよ〜」
 おどけて話すマユだったが、話の内容が内容だけに、軽く聞き流せないと思うハルだった。しかし、自らの生き方に誇りをもっているマユに対して、誠実でいられるためには、せめて笑顔で話を聞くことだとハルは思った。そんな思いからにっこりと微笑みを投げかけるハル。それを見たマユは元の明るい顔に戻し、話を続けた。
「実は、魔女裁判にかけられた理由はもう一つあるんだ」
「え? 何?」
 ハルは身を乗り出してマユの言葉を待った。
「これだよ」
 と言いながら、マユが懐から取り出したのは、一枚のカードだった。それはゴシック調の絵柄に、「愚者」という文字が書かれたものだった。
「え……」
 ハルは、そのカードを一瞥すると頬を赤らめながら俯いてしまった。それもそのはず、そのカードには、男同士の秘め事が繰り広げられている絵が描かれていたのである。
「えー! ハルってうぶ? かわいいなぁ」
 萌え要素満載の仕草だったらしく、キラキラした瞳を覗かせながら呟くマユだった。
「だって……私にはちょっと……」
 マユは、恥ずかしそうにしているハルをニヤリと見つめながらも、目的はそこではないらしく、話を続けた。
「ハルってば、フジョシチックな絵だけど、それほどでもないって。それよりも、面白いよこれ」
 何か企んでいるような怪しい目つきをしながらハルを見るマユ。ハルは、恐る恐るカードを見た。
「ええええええぇぇぇぇ!! ダニー様?」
 素っ頓狂な声をあげるハル。それもそのはずである。マユが示したカードの絵柄は、地獄の入り口で公判手続きの説明を行ったダニー・クルトンだったのである。地獄の入り口にあるあの部屋の壁を固める百余名の天使が地面に倒れる中で、そのもの等を勝ち誇った顔をしながら踏みしめるダニーの姿。罪人に責め苦を与え続ける天使さえも妄想の材料になっていたのである。
 むしろ、罪人にとって絶対的な存在だからこそ、そして歴然とした階級社会である天使だからこそ、マユにとってそそられるものになったのである。
「えへ。いいでしょ〜ってこの絵のことじゃなくって……これ、タロットカードっていうんだ。占いの道具」
「占い?」
「そう。占い。カードを使って人の運命とか見るんだよね。でも、そういうのって魔女っぽいじゃない? でもタロットやっている男もいたのに、男はいいんだって……これっておかしいよね?」
「うん! おかしい!」
 なるほどその通りだと、首を激しく縦に振るハルを、マユは微笑ましく眺めた。ハルはこの荒んだ地獄に居ながら無邪気に振る舞っている。この純粋な心が曇らずに存在し続けるのはどうしてだろうかと思ったのである。
「ハル……ありがとう……」
 微笑むマユにつられ、ハルも同じく微笑んだ。罪人達の悲痛な叫び声が響く中、マユの悲惨な身の上話を話題にしながらも二人の間に穏やかな空気が流れていった。
「そんなかわいいハルに面白いものを見せてやろう」
 ハルに対する信頼の証として、自らの秘密を明かそうという気持ちになったマユだった。
「なんだろう……」
「このタロットカードを床に落とすと……」
 マユは愚者のカードを指で弾き、床に落とした。すると不思議なことに、カードに描かれているダニーと天使達が飛び出したのである。
「ダニー様!」
 ハルは、目の前にダニーが現れたことにより、思わず身構えた。ダニーと対峙したあの瞬間を思い出したためである。カードから飛び出したダニーは、ハルの心配をよそに、絵柄同様に天使達を踏みしめながら恍惚とした表情を浮かべている。暫くするとダニーは服を脱ぎ始め、天使達を襲い始めた。目の前の卑猥な行為をハルは直視することができず、目を伏せながら頬を赤らめた。
 その様子を見たマユは、
――かわいい!
 と獲物を見つけた蛇のように、舌なめずりをしながらハルを見つけた。マユにとってハルの純情さは、男同士の秘め事を妄想するのと同じく萌えの要素だったのである。フジョシからレズビアンに走りそうになる自分の欲望に驚きつつも、更なる変態の道に進みそうな展開にショックを覚えた。
「もうハルったらかわいいんだから〜これは本物じゃないんだよ。私が作った幻影」
「幻影?」
「そう。ここの前の地獄……虚無地獄? そこって何もないでしょ?」
「ああ……そうだった」
「あそこってね、自分の事を信じられるかどうか試される場所らしいのね。自分のことを信じられなかったらずっとあの場所に閉じ込められて、信じることができたら抜け出せる」
「あ……なるほど」
 ハルは納得した。確かに、自分を消してほしいと強く思ったものである。存在することそのものに強烈な嫌悪感を感じたものだ。歌うことによって自分を奮い立てテンと出会った。絶望から、やっと立ち上がったあの地獄のことを思い出していた。
「あの状態で自分の事を信じられるには、よほど強い思いがないと無理だよね? 強い思いは形となって現れるんだって。ここではね」
「強い思いが……形に?」
「そう。だって虚無地獄って何もないんだよ? そこに自分以外の何かがあること自体おかしいよね? って私妄想しすぎて殿方で埋まったけどね。あの部屋が……二百人ぐらい……だって暇だもん。毎日一人ずつ妄想して呼び出したよ」
 虚無地獄は自分のことを否定することで強烈な苦痛になる。しかしマユは自分の生きる道に確固たる自信がある。誇りをもっている。それ故に、自己否定による苦痛はほとんどなかった。更に、妄想すればそれが形になる世界である。マユ好みの男に囲まれることにより虚無地獄はマユにとってむしろ快適な世界になったのかもしれない。
「二百人……マユちゃん! ダニー様を消して! 幻影でもちょっと……」
「恥ずかしがっているハルをもっと見たいな〜って駄目?」
「駄目!」
 困ってしまって怒り顔でマユに訴えるハル。それを見たマユは、やばいと思ったのか急いで戻そうとした。その時、マユは、罪人の絶叫が響き渡っていたはずのこの場所がシーンと静まりかえり、視線がこちらに集中しているのに気づいた。
「え?」
 その声を聞いたハルは、罪人達の視線の先を見た。
「マユちゃん! ダニー様を!」
 そう、罪人達は、急にダニーが現れたことに驚きおののいたのである。罪人達は皆記憶を消されている。しかしそれは地獄に墜ちる前のことである。地獄に墜ちてからの出来事は鮮明に記憶している。皆ダニーの非道な振る舞いは特に記憶に新しい。そのダニーが目の前にいるのである。
 罪人達は、圧縮が始まる前に、理不尽な仕打ちを受けるのではないかと恐れおののきブルブル震えていた。
「マユちゃん早くダニー様を!」
 幻影のダニーを早く引っ込めるように促すハルに対し、マユは一向に動こうとしない。それどころか、ダニーを罪人に見せつけるように辺りを見渡している。