小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

天上万華鏡 ~地獄編~

INDEX|130ページ/140ページ|

次のページ前のページ
 

「ご苦労。カミーユ君、入り給え」
 カロルの声と同時に、受付天使によってドアが開かれた。カミーユの目に飛び込んだのは、内装の全てが金色で統一されている執務室だった。五〇畳程の広さがあり、一人で使用するには広すぎる空間だった。そして異常な程に眩い室内にカロルがいた。
「よく来た。カミーユ君、かけ給え」
 デスクの前にある応接ソファーに座るように促すと、カミーユは目を泳がせながらゆっくりと座った。
「カミーユ君、君が来るのは分かっていた」
「……そのようですね」
「用件を早く言い給え」
 カミーユは自分がここに来ると分かっていた理由が知りたくてたまらなかった。その理由によっては自分が二重スパイだとばれているかもしれない。そして自分が発する言葉でそれを裏付けることになるかもしれない。カミーユはプレッシャーから意識を失いそうになっていた。
「何をしている。早く言い給え。私も時間がないのだ」
「トロン達の動向を……報告したいと」
「いい心懸けだ。何が分かったかね」
 ニヤリとするカロルの表情を見たカミーユは益々顔を強ばらせた。
「ハルが修羅地獄に入ったことで、何も手が出せない。そうぼやきながら手をこまねいているようです」
 ハルがジブリールだと確定させたことやカムリーナやダニーが仲間に入ったこと、ジャッジが司法取引に疑念をもっていることなど、抱えている情報が多い中、カミーユは、どこまで話せばよいのか分からなくなっていた。
「仲間になった者はいないのか?」
「……いません」
 カミーユの返答を見たカロルは眉をピクっと動かした。それはカロルが最初から情報を握っているからではない。カミーユの反応があからさまに不自然だったからである。しかしカロルはこのことを伏せて、鎌をかけてきた。
「カミーユ君。私は何もかも知っているのだ。私に嘘をついたら私と君との信頼関係が瞬時に崩壊する。この意味、君が愚かじゃなければ理解できると思うがどうだ?」
――――まさか、カムリーナ君とダニー様の存在をもう嗅ぎつけた? そうだ……トロンはカムリーナ君とバベルの塔のアナウンス室で会ったって言ってたな……そこでジブリール様の話をしたと……アナウンス室も盗撮されていてカロル様がそれを見ているとしたら、カムリーナの存在だけでなく、ジブリール様のこともばれているということになる。ハルがジブリール様だと睨んでいるという事実までも……これは思いの外、事は深刻だぞ……いや? いや……待て待て……だとしたらカロル様はこんな悠長にしていないはずだ。もっと早く大胆に手を打つはず。もしかしてバベルの塔での会話は漏れていないと考えるのが妥当か? だったらどうして仲間になった者はいないと言ったのに食いつくんだよ。何かを握っているからそう言うんだろ? 何を知っているんだカロル様は……いや、そんなことをのんびり考えている暇はない。早く答えないと更なる疑惑を生んでしまう。でも正しい答えが分からない。これで外したら身の破滅。カロル様はカムリーナを知っているか否か。知ってるか否か。知らなかったら食いつかない。さらりと話が進むはずだ。じゃあ知っている方向で話を展開させる? ……いや仲間の存在を知りたいとするカロル様の立場になれば俺が嘘をついていることすら想定に入れて情報を集めるということも考えられる。ということは鎌をかけられた? やばい! だったら答えを出すまでに時間をかけすぎてしまったから、何か言いずらいことがあるのだろうと結論づけるのが当たり前の考え方。つまりは仲間がいるのにいないと嘘をついたということを既にアピールしてしまっているのか! じゃあどうする! 鎌をかけられていたとしても、それに引っかかってしまった俺は本当の事を言った方がいいのか。
 ほんの数秒の間にカミーユは極限のあまり、猛烈な勢いで自問自答をしていった。長い時間をかけてしまったと思っているカミーユだが、実際には殆どかかっていなかった。
「どうした? 隠している事があるから、言葉が出ないんじゃないのか?」
 恐れていた言葉をかけられた。早く返事をしないと、どんな言葉を発したとしてもアウトになる。カミーユは最善の選択がつかめないまま、決断を迫られた。
「ご冗談を。私はカロル様の虜でございます。カロル様のお力になることが、至上の喜び。繰り返し申し上げますが、トロンの仲間は増えていません。むしろ作戦が停滞しているということで、やきもきしているところです」
――――言ってしまった。言い切ってしまった。ここまで言って、カロル様が全てを知っていたら俺は完全に終わりだ……でも、カロル様が何も知らなければ、切り抜けられる。間が空いたことも、権威主義のカロル様を持ち上げることに徹したからカバーできるはずだ。……で間違いないよな? 大丈夫だよな? カロル様の表情は……ニッコリしているはず。何! 無表情……やめてくれ……無表情で間を開けるな。リアクションできないじゃないか。つか何か言えよ! なあカロル! お前早く反応しないと、ぶち殺すぞ! ……いやいや何考えているんだ俺。口に出していないとはいえカロル様にそんなことを……思っているだけと思っていたら顔に出てましたとか致命的なミスをしていないよな? カロル様の表情はっと。ぬおおお! 何となく怒っているような気がする。俺の心を読んだのか! ていうかカロル様にはそういう能力があったのか! だとしたら俺最悪じゃねえか! だから何も喋らなくて俺にいろんなことを思わせてそれを読んでいる? マジ最悪だあああああ!
「いや、すまなかった。君と私の関係にそんな疑念があると疑うなんて愚かだよな。君が私に忠誠を尽くしているのはよく分かっている。これからも私のために動いて欲しい」
――――イエス! イエス! 大正解! 切り抜けた。そうだよな。俺の予想は間違ってなかった。カロル様は、運良くアナウンス室の様子を見ていなかった。俺に鎌をかけただけ。そして俺の心を読む能力はない。だとすれば、カムリーナとダニー様の存在。そして、ジブリール様の事に気付いていないという設定でいくのが正解。偽情報を流してカロル様の動きを封じる。これぞダブルスパイ。
 カミーユは、神妙な顔を崩さずに、心の中ではニヤリとした。勝ちを実感した瞬間だった。しかし、即座にその余裕が消え失せた。
「ハル・エリック・ジブリールを知っているか?」