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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
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天上万華鏡 ~地獄編~

INDEX|127ページ/140ページ|

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 いくらマユが問いかけても何も答えず、ひたすら空手の型を披露していた。
「だから名前! 名前言わなかったら落としちゃうからね!」
 それでも何も言わない。業を煮やしたマユは、
「もういい! 名前言わなかったから不合格だよ!」
 と言いながら退室を促した。
 その言葉を聞いて空手の型をやめた青年は、身を翻し皆に背を向け、出入り口のドアに向かった。すると青年の道着の背に「玉男」と大きく書いているのが目に映った。
「たまおとこ?」
 ニヤニヤしているマユを冷たい顔をしていながら眺めているスワンは、
「たまお……だよ。お前いつもそんなんだな」
 と呟いた。
「何よ。いいじゃない。私の唯一の楽しみなんだから」
「はいはい。でもまあ名前分かったんだから、名前言わないで不合格ってのはなしになったな」
「そういう意味じゃないんだけどな……もうちょっとまともな人がいないものかなあ……はい次の人」
 玉男と入れ替わりに入ってきたのは、ボサボサの長い髪に伏し目がちな暗い顔。顔ばかりではなく、周りに闇をまとっているかのように陰湿な空気を放っている女だった。この雰囲気に似合わず、純白のワンピースを身につけていた。
「こわ!」
 スワンが叫んだのも無理はない。陰気な風貌な上に、髪を前に垂らし、何かぶつぶつ呟きながら歩いて来たからである。まるで亡霊。動きのぎこちなさからも、更に不気味な雰囲気を醸し出していた。
「名前は?」
 一同、女の不気味な様子に動揺を隠せなかったが、マユとハルは全く動じず、平然としていた。
「さ……佐多子……です」
「さたこか……なんか聞いたことがあるような名前だね。何ができるの?」
 マユの言葉を聞いた佐多子は、何も言わずにマユの前まで、フラフラしながら歩いていった。近づく程に緊張感が走る一同。次第に後ずさりしていった。
「どうして動じないんだよ」
 スワンの視線の先にはマユとハル。二人とも、むしろニコニコしていた。
「佐多子さん、何か凄いことする気がする。だからワクワクだよ」
 ハルが言葉を発した頃には、マユの目の前まで来ていた。見つめ合うマユと佐多子。その刹那、佐多子はマユの目の前に置いてあるクッキーを手にした。
 すると、次第に黒く変色し、腐ってしまった。
「のーー!!」
 絶叫するマユ。佐多子は、マユの続けてテーブルの上に手を置いた。するとテーブルもまた腐っていった。
「のーー!!」
「はふぅ!」
「にょぉぉぉ!」
 それぞれが恐怖感を露わにしながら叫んでしまった。それを聞いた佐多子は、涙を浮かべながら静かに口を開いた。
「わ……私は、触ったものを腐らせるんです……何かお役に立てるかと思って来たんですけど……やっぱり私嫌われ者だから……腐ってるから……駄目ですよね? 」
「佐多子さん。腐ってない。だって凄いじゃない。こんなことできるって私ビックリしちゃった」
 ハルは真っ先に駆け寄って佐多子の手を取りながら語りかけた。
「ハル様……」
 号泣する佐多子。皆、その様子をばつ悪そうに見つめながらも、流石ハルだと頷いた。ただ一人を除いて。
「触ったものが腐るんだったら、どうして佐多子の服は腐らないんだよ。真っ白だし」
「白鳥君。期待通りの反応ありがとう。やっぱりデリカシーないね」
「何だよマユ。だってそうだろ? 疑問に思わないか?」
「スワン君。君は救いようのない馬鹿だな。服は魂の一部。つまり体と同じなんだよ。自分の体で自分の体を触って腐るはずもないだろ?」
「リストまで……サドコンビは怖い怖い」
「私をリストと一緒にしないで! もう分かったから帰っていいよ。次の人」
 佐多子と入れ違いに入ってきた男。佐多子と同じく髪を前に垂らし、腰を丸めて歩いていた。男は佐多子とすれ違うと、振り返り、佐多子の後ろ姿をじっと見つめていた。
「へへへへ」
 不気味な笑みをこぼすこの男。佐多子とは違った陰気な空気を放っていた。
「名前は?」
「ジオ」
「何ができるの?」
「盗聴」
「…………」
 またおかしな人が来た。佐多子でもうお腹いっぱいになっている皆は、ため息をつきながら遠くを見つめた。
「やってみて」
「やらせるのかい!」
「白鳥君。これは試験なんだよ? 一応見ておかないとね」
「まあ……そうだけどさ……」
 二人の遣り取りをよそに、ジオは盗聴に取りかかった。まずは鉄の容器やコードなど何かの部品を幻影で具現化させ、それをかなり速いスピードで組み立てていった。
 完成したのはスピーカーとリモコンが一体化しているような機械と、身長5センチぐらいのロボットだった。このロボットの頭部がカメラのようになっていて、
――――キュルキュルキュル
 という音を立てながらピントを合わせていた。
 ジオはリモコンを手に取ると、ロボットをコントロールして会議室の外に出した。暫くすると、
「わ……私駄目かも……いや……絶対駄目」
「まだ分からないでしょ? 結果待とうよ」
「絶対駄目だって……だから私帰る」
「結果待とうよ」
 先程まで会議室にいた佐多子の声が聞こえてきた。
「うへへへへ」
 不気味な笑みをこぼすジオ。それを見たマユはあからさまに脅えた表情を浮かべながら、
「こいつきもいよ! ばっかじゃないの!」
 と叫んだ。
「さっきは平然だったのに、こういうのは駄目なんだな……」
 冷ややかな表情を浮かべながらスワンはマユを見つめた。
「だって、きもい男やだなんだもん。つかさ、ジオ。そんなことやって何になるの?」
「人には見せないプライベートを垣間見るって萌えるじゃないか。ぞくぞくするね」
「はあ……こいつこれで地獄に墜ちたんだな。きもいからもういい。帰って」
 マユの鋭い声に圧されたのか、ジオは黙って去っていった。
「ハマスは人材不足だな。この様子じゃあっという間にローマ帝国の支配下。結果は目に見えている」
「ロン君、それは初めから分かっていた事じゃないか。でも対策はとらないとな」
 ロンやリストの言葉に一同口を閉ざしてしまった。やはりローマ帝国や殷と対等に渡り合うことはできないのか。そんな思いが皆の脳裏をかすめたとき、マユはむしろ笑みを浮かべながら口を開いた。
「いや、どうにかなる。今日のテスト全員合格!」
「えーー!!」
 会議室に皆の叫び声が響き渡った。