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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
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天上万華鏡 ~地獄編~

INDEX|125ページ/140ページ|

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 攻撃を終えたセルポップ達は、一斉に霧と共に消えていった。その場に残されたのはネロ達と伊達家の武士達。伊達家の武士達は、呆然としたまま立ち尽くし、口をポカンと開けたまま言葉を発する事ができなかった。
 想像を絶する戦闘力。伊達家の武士達は、戦闘に勝利しながらも体中を蝕むような恐怖感に苛まれていた。理解できないものへの恐怖。それが故に思考力が一瞬にして奪われてしまったのである。
「諸君、何を驚いている。これが我が軍の力なのだ」
 涼しい顔をしながら冷静に言い放つネロを伊達家の武士達は直視できなかった。まさに鬼神。人智を越えた存在に映ったのである。ネロの言葉を切っ掛けにその思いが加速した。思わず伊達家の武士が数人、ネロの前で跪いた。それに呼応するように他の武士達も跪く。遂には、ネロを中心にして全ての武士が跪き、額を床に擦りつけた。
 絶対服従の証。ネロはそうとらえた。ネロはこのように、ローマ帝国特有の恐怖による支配とは別に、絶対的な力を示すことにより臣下の人心を掴んでいった。
 支配力が高ければ高いほど組織は強くなる。常日頃からそう考えるネロにとって、今の状態は理想的なものだった。
「諸君、面を上げよ。私に忠誠を誓う旨は十分に承知した。この誓いと我が軍の絶大な力を誇りとし、我が軍の大義のために尽くせ」
「は!」
 畏敬の念から情熱の炎へ。ネロへの思いは、主君に仕える忠誠心へと昇華していった。脅えた表情からうって変わって、引き締まった顔つき、鋭い目つきになった伊達家の武士達は、市ヶ谷駅の制圧及び、営団地下鉄改札の封鎖に着手した。
 四ツ谷駅と同じく、営団地下鉄改札に向かう道では、帝国陸軍の営団地下鉄側からの援軍が大挙押し寄せてきたが、難なく払い、営団地下鉄改札封鎖が完了するまであっという間だった。
「市ヶ谷駅を我が軍は制圧した。この調子で中央線を制覇する」
 ネロのかけ声と共に、中央線にある駅をことごとく制圧していった。帝国陸軍はネロ達に為す術もなく敗れ去り、敗走するしかなかった。そうしているうちに辿り着いたのは東京駅。今回の作戦の最終地点であった。東京駅は元々伊達家の勢力下。多くの者がネロ達の作戦成功を讃え、出迎えていた。その中に只野の姿もあった。只野は、ネロ達の前にそっと歩み出ると、ニコッと微笑みながら口を開いた。
「ネロ様、ご苦労様です。ネロ様の武勇は広く伝わっております。特に南蛮人形が無慈悲な程の絶大な力をもっているとか」
「只野さん。そんな雑談をするために来たんじゃないだろ? 早く本題に入ってもらおうか」
「流石ネロ様。お察しの通りです。それでは早速本題に。この東京駅の側、丸の内口から出て暫く歩くと皇居という天皇が住んでいる場所があります」
「天皇とは?」
「南蛮風に言えば皇帝です。ローマ帝国の皇太子であられるネロ様だったら、皇居がいかほどの価値をもっているかお分かりですよね」
「つまり、皇居を制圧せよということか?」
「その通りです。日本の皇帝の住処が我が領土になったらどれだけ誉れ高いか」
 皇居を制圧する。只野の言う通り、ネロにとっては魅力的なことだった。しかしこの話を怪訝な顔で眺めていた者が一人。それは真之介だった。
「ネロ様、それは危険です。皇居は天皇が住んでいるだけではありません。何故か天使が守りを固めているんです。結界をはることが主な任務だとされている結界官がその役目を負っています。いくらネロ様だとしてもむやみに天使と事を構えるのは得策だとは言えません」
「ほうほう。真之介は、ネロ様が天使に負けるとでも思っているのですか?」
「いえ、滅相もありません。決してそういう訳ではございません。ただ……」
「よい。真之介さんの言いたいことは分かった。確かにその通りだ。しかし、只野さんの言うことも一理ある。これより我が軍は皇居攻略に着手する」
「しかし!」
「しつこいぞ真之介さん。やると決めたらやるのだ」
 真之介の思いとは裏腹に、皇居攻略作戦が始動しようとしていた。
 その頃、ハマス共和国では、会議室入り口に長蛇の列ができており、いつもと違う喧噪に包まれていた。
「私は笠木です。放送アナウンスにて失礼します。これより幹部候補生選抜試験を行います。この試験の目的は、ハマス共和国をより安全で住みやすい国にするため、皆さんの中で才能がありながらも埋もれてしまっている方を発掘することにあります。皆さんふるってご参加ください。試験内容は面接のみ。私達の前であなたの能力を披露してください。以上です」
 会議室の中で、ほっとため息をつく笠木。マユは、その姿を見てニコニコしながら近づいていった。
「何緊張してるのよ。演説とか得意なのに変なの」
「茶化さないでくださいよ。これまでやらなかったことをするのは勇気がいることなんですよ」
「分かってる。頑張ってるよね。ところでさ、能力ある人を募集するっていいアイデアだと思わない?」
 ニコニコしながら話すマユ。その様子を見て皆小さく頷いた。そしてリストが口を開いた。
「確かにその通りだな。これまでしっかり守っていくという考えがなかったから、皆の能力に無頓着だった」
「そういうこと。リスト、最近気が合うね。」
「そりゃあ俺とマユ君は同じサディストだからな。気持ちが通じてもおかしくない」
「サディストじゃないし、気持ち悪いこと言わないで……話戻すけどさ、ピータンの例もあるじゃない? 実は凄い力もってましたってやつ。特にリンちゃんはそう思うでしょ? あの時驚いてたもんね」
「そうなんだよ。俺もピーターがそんな力もってるなんて知らなかったぜ。圧縮地獄から一緒にいたのによ。あん時はびっくりした」
「やっとまともになりそうだな。兎に角、城壁ぐらいは作ることができる人材が欲しいものだ」
「ロンちゃんは城壁城壁ってうるさいね。分かってるってば」
 冷静な表情を浮かべているロンに比べ、マユは頬を膨らませ怪訝な顔をした。
「もうマユちゃんってば……皆さんお待ちかねだよ。始めようよ」
「ハルってばかわいいんだから。そうね、始めようか」
「なんかリラックスしまくりだな……」
「スワンくん! 何か言った?」
 にこにこ顔から一変。マユは鋭い目つきでスワンを睨んだ。
「……いいえ」
「笠木さん、試験始めるよ。初めの人入れて」
「かしこまりました。マユ様」
 笠木は、再度マイクをオンにしてアナウンスを始めた。
「それでは試験を開始します。試験は一人ずつです。前の方が出てきたら、入ってきてください」
――――ガラガラガラ
 ドアが開き、入ってきたのはシルクハットを被った紳士風の男だった。
「名前は?」
 質問したのはマユだった。この試験の責任者はマユ。それ故この試験を仕切っていた。
「ハルバードです」
「能力を見せて」
「かしこまりました」
 と言うと、ハルバードはシルクハットを手に取り、そこから鳩を出した。
「手品ができます」
「…………」
 一同、渋い顔。対してハルバードは鳩のマジックがうまくいったからか、得意満面の笑みを浮かべながらマユ達を見つめた。
「ありがとう。次」
 胸を張りながら去るハルバード。入れ替わるように気の弱そうな女が入ってきた。
「名前は?」