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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
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天上万華鏡 ~地獄編~

INDEX|124ページ/140ページ|

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 帝国陸軍の兵達は、次々に武器を取り出しあらゆる攻撃を繰り広げる親衛隊に畏怖し、戦意を喪失していった。それでも親衛隊は攻撃の手を緩めない。次は、合掌の姿勢から手を左右に広げる所作を行う事でバズーカー砲を現し、即座に引き金を引いた。
 爆音と共に帝国陸軍の兵達の体を木っ端微塵にしていった。辺りは、黒こげになった兵達や血まみれになった兵達がピクピクと痙攣しながら佇んでいた。まともに動ける者は誰もいない。そのことを確認した親衛隊は、電車の窓をすり抜け外に出ると、猛スピードでネロ達が乗る電車の方に走っていき、遂には追いついた。大きくジャンプして電車の屋根に飛び乗ると、そこからまたすり抜けて電車の中に戻ってきた。
 少しの汗もかかずに平然としている親衛隊。帰還したことを確認したネロは、親衛隊を一瞥すると
「ご苦労だったね」
 と一声かけ、また前の体勢に戻っていった。親衛隊一人で、すれ違う電車全車両を壊滅に追い込んだ。伊達家の武士からすると奇跡に近い所業。しかしネロ達にとっては当たり前のことだった。
「何と申したらよいのやら……」
 真之介は、今更ながらネロ達の突出した戦闘能力に絶句した。
「真之介さん、何を驚いているんだ。これからが本番だ」
「そうなんですが、これ程までとは……」
「それは私達の力をもっと低く見積もっていたということか?」
「いいえ、滅相もありません。ネロ様のお力を私のような小物には量る術もなく、ただただ驚かされるばかり……」
 この言葉を聞いた途端、温和なネロの表情が瞬時に曇った。
「真之介さん、私の部下に小物は必要ない。常に高みを目指す者だけだ。そんな容易に自分を蔑むことなど私は許さない」
「申し訳ありませんでした。より一層精進致します」
「それでよい」
 ネロの圧倒的な力を前にして真之介は畏れを抱いていた。自分がその隣に立つことなぞおこがましいと思う程に。しかし、ネロの言葉は、そんな思いを打ち砕いた。自分はネロから期待されている。ネロの叱責に落ち込むよりも認められた満足感で身を震わせた。
 そんな会話をしていると次の駅が近づいてきた。
「次は市ヶ谷。お出口は右側です」
「総員戦闘態勢に入れ」
「御意」
「おう!」
 市ヶ谷駅が見えてきた。市ヶ谷駅は、ホームが二つしかない比較的小さな駅である。そのため大きな戦闘を行える程広くない。しかし、地下鉄は帝国陸軍の本拠地。そのため、おびただしい数の兵、戦車や機関銃などの兵器が所狭しと並んでいた。明らかにネロ達を迎え撃とうする構えだった。
「あなた、先陣を切ってまずは結界をはるように」
「御意」
 セルポップを召喚する親衛隊に目配せすると、意図を察したのかドアが開くと同時に飛び出していった。
「一斉砲火!」
 親衛隊に向けて帝国陸軍の機関銃が火を噴いた。しかしセルポップの精霊結界と同じく弾を全て吸収し、その代わりに例のセルポップが現れた。親衛隊は攻撃が自分に届かないと分かっているためか、帝国陸軍からの攻撃を全く無視して作業に取りかかった。
 四ツ谷駅と同じく、ワンドを取り出し、ホームに線を引いた。その線が結界のラインとなる。その結界を攻撃すれば漏れなくカウンターを食らう。にも関わらず、帝国陸軍の兵達は、親衛隊と仕留めようとけたたましく機関銃を鳴らした。
「誰かさんの言葉を借りれば、情報こそ戦闘の要。四ツ谷駅での顛末が情報として上がっていれば不用意に攻撃しないもの。どこまでも愚かなんだな。結界もはり終えたか。諸君、市ヶ谷駅に乗り込む。四ツ谷駅と同じく、私の合図があるまで攻撃を控えるように」
「御意!」
「おう!」
 ネロの指示が飛ぶと同時に戦闘開始を告げるホラ貝が鳴った。ホームに降り立つネロ達。結界をはった親衛隊と合流すると、改めて帝国陸軍と対峙した。
 帝国陸軍は親衛隊に対する攻撃が効かないことに恐れをなしたのか、脅えたようにブルブル震えると、機関銃を動かす手が止まった。
「貴様等それでも日本男児か! 恐れるな! 一斉砲火!」
 帝国陸軍の上官らしき男が檄を飛ばすと、その言葉を合図として機関銃やライフル銃などの火器が火を噴いた。
 一気に緊迫した戦闘に突入するかと思いきや、ネロ達は笑みを浮かべながら動じる様子がなかった。それは勿論セルポップ精霊の結界があるためであった。四ツ谷駅と同じく、弾を結界上で吸収すると、それが西洋人形に姿を変え、カウンターに備えていた。その数、百数十体、そろそろカウンター攻撃に転じるタイミングだと感じた親衛隊は、
「そろそろでしょうか」
 と、ネロに伺いを立てた。
「待て。まだ早い」
「御意」
 親衛隊の動きを制したネロは、帝国陸軍を見つつ、言葉を発した。
「帝国陸軍の諸君。あなた達が攻撃すると現れるこの人形は「セルポップ」という。このセルポップは、私が合図を送ると攻撃者にもれなく返るようプログラムされている。つまり、私の合図と共に、あなた達は全滅するのだ。そんなひ弱な攻撃をしていたらこの結界を破ることなんぞできないぞ。全滅という道を選ぶのなら話は別だがな」
 ネロの言葉を聞いて帝国陸軍の兵達だけでなく、伊達家の武士達にも動揺が走った。特に真之介は、信じられないといった表情でネロを見つめた。
「真之介さん、敵に手の内を明かすことが信じられないといった表情だな。違うか?」
「え……まあ……しかしネロ様にはお考えがあるのでしょ?」
「その通りだ、まあ見ておくといい」
 ニヤリとするネロ。対して帝国陸軍の兵達は苦悶の表情を浮かべたまま動けずにいた。攻撃するとしっぺ返しを食らう。ネロの言葉は、猛攻撃をしても一切攻撃が届いていないという事実と合わせて強い説得力でもって帝国陸軍の兵達に届いた。
「戦車隊、砲撃開始!」
 機関銃での攻撃では明らかな反撃をくらうと思ったのか、帝国陸軍の上官のかけ声と共に、戦車の砲台から火を噴いた。
―――ドカン! ドカン!
 機関銃とは比べものにならないぐらいの爆音を轟かせながら発射された。戦車の弾はセルポップ結界に当たると、巨大なセルポップに姿を変えた。屋根を突き破る程大きい人形は、駅の構内に収まりきれず、四つん這いになるしかなかった。それ程の大きさだった。その数六体。凶悪な兵器が完成した。
「戦車をもってしても……それにあの人形……」
 帝国陸軍の上官は言葉を失った。脳裏には最悪の事態が目に浮かぶ。しかし、それを避ける術はなかった。
「よし。いいだろう。開放せよ」
「御意。プロテクト フロム エネミーズ」
全てのセルポップがカタカタ動き出し、最後に大きく口を開けた。
「ジャゴブジュリギュキャァァァァァァァァ!」
 グロテスクな金切り声をあげる巨大なセルポップは、通常サイズのそれと比べ不気味な存在感を示していた。同時に、口が青白く光り、
――――キュルキュルキュル
と音を立てながら、閃光となって帝国陸軍の兵達に襲いかかった。
 巨大なセルポップが加わった攻撃力は、四ツ谷駅の時と比べものにならなかった。眩い閃光は、街一つぐらい簡単に滅ぼしてしまう爆弾と同等の威力があった。それが至近距離で帝国陸軍に注がれる。帝国陸軍の兵達は、全て身構える間もなく塵に消えた。