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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
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天上万華鏡 ~地獄編~

INDEX|108ページ/140ページ|

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 真之介以上に戦慄したのは、伊達家の霊達である。ジュネリングに手を出さないという、現世に留まる霊達にある暗黙の了解をいとも簡単に破ろうとしている。いくら戦いに敗れても、痛みを我慢すればよいだけと考えていた伊達家の霊達にとって、ネロの言葉は恐怖以外の何ものでもなかった。
「次は渋谷、渋谷、お出口は右側です」
 車内アナウンスの直後、電車は停まり、乗客が出入りした。と同時に、新たに伊達家の霊が電車に乗り込み、ネロ達に襲いかかった。
「電車が停まると外から敵が来る仕組みのようだ。ドアが閉まるまで一斉砲火」
「御意」
 親衛隊達はそれぞれのドアの方に向くと、即座に発砲を始めた。被弾しては倒れ、その体を乗り越えて更なる霊が襲いかかる。そんな光景が繰り広げられている中、渋谷駅のホームでは、弓を構えた伊達家の霊がネロ達を睨んでいた。その数、数百。明らかにネロ達は包囲されていた。
 一斉に矢を射る霊達。その矢は電車をすり抜け、ネロ達に到達しようとしていた。
「あわあわあわ」
 思わぬ攻撃に脅え、頭を抱えて震える真之介に対し、ネロ達は一切動じることはなかった。冷静に親衛隊の一人が、床に「ターンバック」と書くと、その文字を平手で強く叩き
「我に仇する矢に命ずる。元来た道を辿り汝にその動きを付与したものにその力を返せ。ターンバック」
 と唱えた。すると、全ての矢がその動きを止め、ゆっくりと逆再生するかのように元の位置に返っていった。最初はゆっくりとした動きだったが、次第に加速していき、弓を射た霊達の元まで来た頃には、猛烈な速さになり、その体に突き刺さった。
「現世に留まる者達は、解呪の法を知らないとみえる。こんな単純な術にかかるとはな。地獄の業火を知らなければ当然の結果か。甘いな。外にいる敵に一斉放火。徹底的に駆逐せよ」
「御意」
 親衛隊のうち、半分はそのまま車内の霊に対抗し、残り半分は電車の天井をすり抜け、屋根に立って辺りを見渡すと、ホームにいる伊達家の霊に対して火器を構えた。機関銃やロケットランチャーなど強力な武器に持ち替えたため、その破壊力は絶大で、当然のことながら敵うはずもなかった。
 しかし、ホームにいる伊達家の霊のうち、数人は、親衛隊達の火器による攻撃をすり抜け、電車の屋根に飛び乗ってきた。この素早い動きをして親衛隊達の懐に飛び込んだのは、伊達家が召し抱える忍者だった。忍者達は親衛隊の懐に飛び込むのと同時に刀を抜き、斬りかかろうとした。
 親衛隊達は銃を持っている。しかし、接近戦には向かない。そう判断した親衛隊達は、銃を手放し、腰に差した剣を抜いた。歴史上では実現できなかったローマ帝国の兵隊と日本の武士との斬り合いが始まった。
 と同時に
「二番線ドアが閉まります」
 電車が動き出した。
 動いている電車の屋根と中での戦闘は熾烈を極めた。しかし、ネロ達の圧倒的な武器と戦闘技術の前に伊達家の霊達は圧されていった。屋根に乗っている忍者達も同様で、素早い動きで親衛隊達に対抗するも、親衛隊達の剣術の前に為す術もなく、しまいには電車から落とされてしまった。しかしうまく着地して親衛隊達にニヤリとすると、素早く駆けて去っていった。
 ネロ達を攻撃する伊達家の霊がいなくなったところで、ネロは再度倒れている伊達家の霊の胸ぐらをつかむと
「このまま倒れていたらやり過ごせると思ったか? ここまで我々の手を煩わせるのだ。それなりの覚悟があるんだよな?」
 といいながら、その霊が首に付けているジュネリングを指でなぞった。
「あわわわ……それだけは……」
「だよな? 地獄に行くぐらいだったら何でもする。そう思わないか?」
「は……はい!」
 まず先に恐怖を与え、その後でよりよい条件を引き出す。ネロの常套手段である。
「あなたの主君は誰だ」
「それは……」
「じゃあ地獄に行くんだね?」
 と言いながら、ジュネリングに指を引っかけた。
「言います! 伊達政宗様です!」
「伊達政宗……その者はどこにいる」
「それだけは……」
「じゃあ地獄に……」
「分かりました! 上野です!」
 と言った途端、震えながら泡を吹き、気絶した。
「地獄の罪人はどんな愚かな者であっても、こんなことぐらいでは気絶しない。現世の霊は全くもって脆弱だな」
「殿下。我々を襲った愚か者の首領が分かったのは収穫ですが、これよりどうされますか? 首領を成敗するか、それとも根城を探すのか」
「そうだな。この者達の主君を討伐する。と同時にその主君の住処を根城とする」
「なるほど……」
 ネロは、先程の尋問で気絶してしまった霊とは別の者の側に行くと
「あなた、上野にはどうやっていくのか?」
 と詰め寄った。
「あわわ……このまま乗ってたら着きます!」
 先程までの遣り取りを見ていたこの者は、恐怖心が先立ったため、即座に返答した。
「なるほど……諸君、このまま上野という場所に向かう。それまでに数回敵の襲撃に遭うだろう。今のところ、この電車には我々に牙を剥く敵はいない。電車が停まり、ドアが開いたときのみ戦闘態勢に入ればよい。各自警戒を解き戦闘に備えよ」
「御意」
 ネロの言う通り、ネロ達に牙を剥くものはいなくなった。壮絶な戦いから一転して、辺りは静まりかえった。聞こえるのは線路を通る車輪の音。ネロ達はゆっくりと座席に腰掛けた。
 人間のサラリーマンに、ローマ帝国の軍人が紛れるという何とも違和感のある風景が繰り広げられた。しかしそれも霊的な世界も含めてのこと。人間達は先程まで展開していた惨劇など知る由もなかった。
「次は品川、品川、降り口は左側です」
 アナウンスを聞いたネロ達に緊張が走った。
「諸君、いよいよ次の敵が攻撃を仕掛けてくる。戦闘配置につけ」
「御意」
 暫くすると品川駅に着いた。開いたドアから出入りする人間達。しかし、渋谷のように伊達家の霊達が攻め入ることはなかった。ホームに佇む霊達はじっとネロ達を見つめるのみ。特に敵意を見せることはなかった。
「殿下、ここでは敵の攻撃がなさそうですね」
「そのようだ……真之介、この場所は敵が攻めて来ない訳があるのか?」
「分かりません。ただ、品川駅は山手線以外にもたくさんの路線が乗り入れていますので、伊達家以外の縄張りになっているかもしれません」
「真之介、あれは軍旗だろ?」
 ネロが指さすのは、ホームに立つ武将の霊が持っている旗印のことだった。この旗印は戦国武将が自軍を示す印として使われた旗のことである。
「あ……伊達の旗印……」
「だろ? ということは、あなたの言うことは該当しないということだな。あれが伊達だったらもう攻め入っていることだろうからな」
「どういうことだ……」
「だからそれをあなたに聞いているのではないか。分からぬということだな?」
「申し訳ありません……」
「よい。諸君、敵は作戦を変更したとみえる。どんな状況にも対応できるように、警戒怠らず待機せよ」
「御意」
 親衛隊はネロを囲むように配置し、四方に警戒の目を光らせた。動きをピタったと止めてはいるが、その神経は極限まで研ぎ澄まされていた。ほんの少しの変化を見逃さないように、そんな集中力が辺りを緊迫させた。