かい<上>ただひたすら母にさぶらう第一章完
某月某日 認知症の方を介護する。あるいは、看護する。その大変さは「言葉」では表現出来ないだろう。また、体験者にしか解らないだろう。肉親なればこそなのだが、、、。
「ほ~ら、靴下履き替えなあかんやん、はい、こっち向いて、バタバタしたら、でけへんやろ~」母を座椅子に座らせて、靴下を履かせようと。
「ふふ~ん、え~ネクタイしてるな!、いつこ~うたん?」母にすれば、私は時には、格好の遊び相手なのだ。
「これか?だいぶ前やで、バタバタし~なっ、てっ!」と、母の足を捕まえようとするのだが。
「こそばいねん、さわらんといて~、けったろか~」完全に遊ばれているのだ。
「自分の子供やで、蹴ったらあかんやろ~」と、私も相手になる。その時。
「わてのコーっ!」と母が私を睨む。
「そうやんか?お袋ちゃんは、僕を産んだお母さんやんか~」しまった。遊んでおれば良かったのに。
「しらん、うんだおぼえないわー!」と母が気色ばむ。
「ほんだら、僕は、誰が産んだん?」消え入りそうな私の声。どんな流れになっても、ちゃんと受け止めなければならないのだ。
「あんたっ!、かってに、きたひとやろーっ!」
「へえー、僕、何処から来たんやろ~」と、やんわり。
「しらんわっ!そんなこと、だれか、よそから、きたんやろーっ!」
「えらい、今日は、機嫌悪いねんな~」と、切り返してみた。
「わるないっ!、あんたが、もんく、ゆーからやーっ!」(そうやったなー、僕のミスです)。母の様子を窺いながら。
「はよ、履き替えよ、もう直ぐ、学校(デイ施設)行く時間やから~」
「きょう、がっこうかー?」私がしおれたので、母が気遣ったようだ。
「そうやで~、お袋ちゃんの好きな学校、行く日やで!」
「へぇ~そうか、わかれへんかった、にいちゃん、おしえてくれて、ありがとう」気脈が通ずる。母も私をちゃ~んと見ているのだ。
母の一日はこうして、始まる。(お袋ちゃん、今日も元気で、生きような、、、)。
「きぃーてんねんやんか!」テレビと母、その(1)
2005/8/8(月) 午後 0:30
某月某日 母は滅多にテレビを見ない。だが、不思議と私の好きな野球中継だけは、一緒に見てくれるのだ。私は「トラきち」である。
「よっしゃー、抜けたーっ!」と、大声を挙げる私。
「なにが、ぬけたん?」
「うん、今な~、ヒット、打ったんや~」
「だれがー?」
「うん、僕の好きな00選手やで~」
「どこのひとや?」
「00の人や」
「いつきたん?」
「00に入ってからか~、もうだいぶなるな~、この選手は」と、母に説明する。
「あー、あかん、取られたわー」画面を指さし母に教える。
「なに、とったんや?」
「うん、ボールがな、フライになって、取られてしもたんや、取られたらアウトやねん」
「ふ~ん、アウトてどうしたん?」
「もう、あかんねん」
「もう、おわったんか~」
「試合は、まだやけどな~、この回はもうあかんねん」
「いつまでやるん、あー、はは~ん、こっちみてな、わろ~とるわ」
「あれは、敵の、ピッチャーやで!」
「どこのひと?」母にとっては、敵や味方等と言う事自体がおかしいのだ。
「敵の、00の人や」
「なんでわかるんや?」
「う~ん、、、、、、、、、」頭の悪い私には、この辺りの説明が難しい。それを知ってか。
「どこからきたん?」母が追求する。
「んん、、、、、、、、」頭をフル回転させるのだが。
「きこえへんのんかいなー、もうーっ、きぃーてんねんやんかーっ!、(このアホ、頼りない奴やーと言わんばかりだ)」目を三角にして、母が私を睨むのだ。
母に詳しく説明すると、野球が終わってしまうが。此処は仕方なし。母にゆっくり説明するのである。
「わるいやつやなーっ!」テレビと母、その(2)
2005/8/9(火) 午後 0:23
某月某日 見たまま、聞いたまま、感じたまま、誠に素直に母は、反応する。したがって、私は、母が発した言葉は、全てそのまま、受け止めることにしているのだ。
「おちゃな~ほしいねんけど?」
「はいはい」母が、湯飲み茶碗をもて遊んでいるので、準備していた。
「あまくないな、これ~、どうしたん?」
「お茶やからな、何か甘いもん欲しいんか~?」
「う~うん、おちゃでえ~は、にいちゃんばっかり、つこうて、ごめんな~」
「お茶ぐらい、誰でも、できるやんか~」
「あのひとみてるわー、だれやのん?」母が急に、テレビのCMを見て。
「ああ、あの子か?最近よ~出てるな、名前は知らんわ?」
「わー、あんなことして、あかんやんかな~、あぶないやんかー!」
「コマーシャルや、本当には出来へんわー!」
「なにゆ~た、いま?」
「うん、人殺したんやてー、アホなことしよるなー!」
「なんでや?だれやー?そんなことしてー!」
「高校生やな、何考えてるんかな~」
「へぇー、こうこうせいかいなー、にいちゃんしってんのん?」
「い~や、知らん子や」
「わるいやつやなーっ、こんなんわなー、おやが、わるいねんっ!」とキッパリ。母の言葉は、核心を突いている。
「なんでこないなったんやっ!」テレビと母、その(3)
2005/8/10(水) 午後 1:14
某月某日 忘れると言うことは、限りなく、不安なものなのである。
「あめふってきたんちゃうかー?」と母が突然。
「降ってないよ、ああ~っ、テレビやんかー!」
「そうか?、くら(暗)いで~、ふってないか~?」
「ほ~ら、見てみぃ、なっ、此処は、降ってないで」ベランダを指さし、母を促す。
「なんで、こっちはふってるん?」母がテレビ画面を顎で指し。
「それはな~、テレビのドラマで、雨の場面やねん、こっちは降ってないから」
「ややこしいな~、こっちふってんのにな~、なんのドラマや?」
「2時間ドラマや、見てんのんかいな~」
「だれかな~、しらんひとが、あたまから、ちぃーだしてんねん、どうしたん?」
「なんか、事件でも起きたんちゃうか?」
「どこでやー?」
「東京やろ~、此処は」
「はは~ん、にいちゃんな、さっきから、ず~と、わたし、みとんねん」
「あの人がかー?、何で、お袋ちゃん、見るんや~?」
「しらんねん、おおきな、め~して、みとんねん、あほちゃうかーっ!」
「そう言うな~、ドラマの役をやったはんねん!」
「やく?、ってなんや?」
「お芝居してはんねんやん!」
「しばいか?これわ~」
「そうやんか、テレビの芝居やで~」
「なんでこないなったんやっ!」ドラマの展開が、母には腹立たしいのだ。私も同感だ。
「芝居やから、そんな、怒鳴らんでもえ~やん」と、一応言ってみたが。直ぐに。
しまった。母には、見たものは、全て現実なのだ。この後、口角泡を飛ばす勢いの母の口撃にたじたじとなった私(ほんまに修行が足りん)。
「こんなんみてんのんかーっ!、しょうもないっ」テレビと母、その(4)
作品名:かい<上>ただひたすら母にさぶらう第一章完 作家名:かいごさぶらい