ラーメンばばあ
珍しく熱く語ってる。こんなの初めてだ。この人、トロ臭くてドジで、バカな人だとずっと思ってたけど、熱い気持ちを持ってたんだな。知らなかった。俺が上っ面で付き合ってたから、この人の内面まで気付かなかったんだろうか。悪いことしてた。「ウマい」を言ってはいけない理由も分かったよ。
「味は気持ちで受け取れってことですか?」
「お、いいこと言うじゃねえか。まあそんなとこだ。言葉より語るものがあるってとこか」
「ハハ、格好いいですね」
この人を初めて格好いいと思った。俺はいい先輩を持ったかも知れないな。感謝しなきゃ。
そんなことを話していると、ようやくラーメンが運ばれてきた。さっきまでは帰りの電車の時間が気になってたけど、もうそんなのはどうでもいいや。
「お、来た来た。腹減ったな」
「はい、腹減りました」
本当に腹減った。婆さんが持ってきたラーメンは、シンプルなしょう油ラーメン。ナルトとシナチク、チャーシューが一枚入った昔懐かしいラーメンだ。
「頂きます」
そして頂くことに。まずはスープに口を着け「!?」。続いて麺を一口「!?」。先輩を見ると、実にウマそうに食ってる。あんなに熱く語っていただけのことはある。ラーメンに絶大なる信頼を寄せ、身体を預けるようにして食らいついているのだ。だが先輩、申し訳ない。俺は心でこう叫ばずにはいられないぞ。マズイ! マズすぎる! 今までの人生で食べてきたどのラーメンよりも明らかにマズイ! 味がしねえ! 麺がのびてる! スープがぬるい! 心通う会話をしたばかりだが、先輩大変申し訳ない、俺たちの熱い語らいは一瞬で終わった。