凡人の非日常
4
未だに俺達は手をつないだままだ・・・。
ただでさえ、先生は人の目を引くというのに・・・。
恥ずかしい気持ちとともにすまないっていう気持ちがわき出る。
この人と手をつないでるのが男、しかもカッコ良くも背が高いわけでもない普通の高校生でごめんなさい。
「で、さっきから黙ったままだけど何食べたい?」
「先生が食べたい物でいいです。」
今の俺にそんなこと考える余裕なんてなかった。
もう手を離してもらうことは諦め、今は手汗を止めようと必死だった。
「鈴木君って一人暮らし?」
いきなり昼御飯の話から俺の話に変わった。
まぁ・・・今さら驚きもしない。
「そうですよ。」
「へぇ・・・じゃあ、料理とか作れるの?」
「まぁ・・・それなりに・・・。下手ですけど。」
「俺、鈴木君の手料理食べたい。」
へぇ?いきなり何言い出してんの、この人。
しかも、気づいたら俺達は駅にいた。
料理作るんだったら、俺んちか先生んちに行くことになる。俺んちか先生んちかわからないけど、どっちにしろ電車に乗って帰る。
先生の計算通り?
あはは・・・はぁ・・・。
先生は切符を買った。まだいいよも何も言っていないのに。
「ま、まって下さい。まだ俺作るって言ってませんよね?」
先生が切符を買い終わり、改札口へ歩いていく。
「はい、これ切符。」
紙袋の掛かった左手で渡される。
これ・・・完全に俺が昼御飯を作る感じだよね。
どうしよう・・・そんなに上手じゃないのに。
「あの、先生・・・・・・さっきも言いましたけど、俺料理するの下手ですよ。」
大きな背中に向けて放つ。
返事は返ってこない。
「それに俺じゃなくても、先生に料理作ってくれる人なんていっぱいいるでしょ?」
広い背中に向けて発してみる。
返事は返ってこない。
ホームに降りるともう電車が来ていた。
これも先生の計算通り?
流石・・・。
俺達は電車に乗る。
先生は乗ってすぐの所で止まった。
俺も電車に乗り、先生の隣に並んだ。
ドアが閉まる。
それと同時に手が離された。
やっとだ・・・。
俺は心の底から喜んだ。
「あのせんせぇ」
ドンっ
喜んだつかの間、ドアに押さえつけられた。顔の横には手が、目の前には先生の顔がある。
ちょ・・・何これ!!周りから見たら変に見える!!!昼間だから電車の中も人少ないけどそれなりにいるよ!!
でも、やっぱり先生はイケメンだ・・・。こんな近くでみて改めて思う。こんなイケメンとこんな状況になってる相手が特徴もないただの男ってなんか・・・悲しい。
せめて、もう少しカッコよかったら・・・。
せめて、もう少し身長があったら・・・。
せめて、女の子だったら・・・。
「鈴木君ってさぁ・・・結構顔整ってるね。」
・・・お前にだけはいわれたくねぇぇ!!!!!
なんだその嫌味!!
バカでも嘘だってわかんぞ!!!!
「バカみたいな事言わないで下さい。ってか早く離れて下さい。」
「ごめんごめん。怒んないでよ。」
謝ってはいるものの未だに顔は目の前にあり、手は顔の横にある。
「謝るんだったら離れて下さい。」
先生の目を見る。
先生も俺の目を見る。
見つめあう。
引きずりこまれるように。
周りからみたら気持ち悪いだろう。男同士があともう少しでキス寸前くらいの距離で見つめあってる。
後から俺も想像したら吐き気がする。
少しの間、二人は見つめあう。
「鈴木君の目って凄く綺麗。」
いつも以上に真剣な顔で、いつも以上に色っぽく言う。
俺はその言葉で我に帰り、少しの間見つめあってた恥ずかしさと真剣に目が綺麗って言われた恥ずかしさでで顔を真っ赤にし顔を下に向けた。
くっ・・・ぷはぁ・・・あはは!!
目の前の人が斜め下を見ながら笑う。
「そんなに笑わないで下さい。」
まじで恥ずかしい・・・。
「ごめん。」
そう言いながら少し顔を近づけてくる。
もしかして・・・き・・・キス!!!
俺はぎゅっと目をつむり、下を向き続ける。
「ほんと鈴木君は可愛いなぁ。」
映画の時のように耳元で囁いた。
ビックリとドキドキと残念が心の中で混ざりあう。
「ばっバカ!!!!」
心のもやもやを言葉に当てはめたらこれしか出てこなかった。
一体、今日の半日でどのくらいドキドキしたんだろう。
まるで恋する乙女だ。
・・・こ・・・い・・・する乙女・・・。
・・・まさかこの・・・ドキドキ・・・・・・・恋じゃないよね・・・。
相手は先生。その上、男。
その男の分類の中でもイケメンというカテゴリーに分類される最高ランクの男。
完全に叶わぬ恋。
ってか・・・別にこれは恋じゃない・・・・・・よね。
・・・まず、恋って何だっけ?
気づいたら先生は俺の目の前から消え、普通に横に立っていた。
今日のたった半日でこの人は僕の気持ちをめちゃくちゃに揺さぶった。
めちゃくちゃにするだけしてそのままだ。
ほんと、どうすればいいかわかんない・・・。