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サクラテツ
サクラテツ
novelistID. 18216
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能無し堂へようこそ

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お嬢様、と言われて私は顔が少しばかり引きつってしまいました
今までの16年間で、おおよそ言われたことのないその言葉は、私の腰を引かせるには十分な効果がありました。
「えぇっと、ここの店員さんですか?」
「ハハハ、店員と言ってもここには私一人しかいませんがね」
男性は笑って答えます
そのお顔立ちはとても整っていましたが、見ようによっては少年にも青年にも中年にも見えるという不思議なお顔の持ち主でした
「それでは、店長さんですか?」
「ふむ、そのようなものだとだけ言っておきましょうか」
何となく、変わったお人だと思いました
人の扱いにとても慣れていらっしゃるような、そんな印象を私は受けました
店内を見回すと一つの木製の机と、所狭しと並べられた棚があり、棚の中には無数の宝石のような石が並べられていました。
「え~っと……ここって何のお店なんでしょうか?」
「おや?もしかしてここがどういう場所か知らずに入ってこられたのですか?」
 男性は私の質問に驚いたような顔をされました
「あっ、えっとその……雑貨屋さんか何かだと勘違いして……」
 外の看板には「good for noting」としか書かれていませんでした
もしかしたら、ここは高級宝石店か何かで、私のような一高校生が来れるようなお店ではないのかもしれません
「なるほど、ではお嬢さん一つお聞きいたしますが」
「は、はい?」
私は、緊張で声が上ずってしまいました
あなたのような子供が来るところではないと怒られたら、どうしようかと考えたのです
しかし、男性の質問は意外なものでした

「何か叶えてほしい望みはおありかな?」

一瞬、ポカンとしてしまいました
「望み……ですか?」
 突然に突然なことを言い出されて私の思考は少し混乱してしまいました?
もしかして魔法のランプでも持っているのかもしれません?すると彼はアラジンなのでしょうか?
「ありませんかな?」
 と、男性は少しばかり残念そうに聞いてきました。
「いえ、その……」
 願い、と言われればあるにはあります
しかし、それを今日始めてあった方にお話しするのは少しばかり気がはばかられました
「それは、タダで叶えてもらえるものなんでしょうか?」
 不躾ではありますが、私はお財布に五百二十四円しか入っていないのを思い出して、そんな質問をしてしまいました。
「残念ながら無償で、というわけには行きません。ある程度の対価は頂くことになっています」
「それは、やはりお金ですか?」
「いえいえ、お金などより遥かに貴重なものです」
「貴重なものというと……金……宝石……プラチナ……」
私の貧困な想像力では貴重なものと言えばそのくらいしか浮かびませんでした。
店内の棚に置かれたキレイな石達が対価なのだろうかと考えたのです。
「いえいえ、そのようなものとは比べ物にならないほど貴重なものです」
「それって何なのでしょうか??」
「はい、それは何物にも変えがたい人間の最も貴重な財産……」


『時間をいただいて願いを叶えております』


またしても、私はポカンとしてしまいました
「時間……ですか?」
「はい」
男性は相変わらず、整ったお顔立ちに柔和な笑顔を浮べています
私はそれを魅入られたように見つめていました
そのまま、何分が経過したでしょうか?
「どうされました?」
声を掛けられて、私はフッと意識を取り戻しました
どうやら、また意識がどこかへ散歩に出掛けてしまっていたようです
「スイマセン、そろそろ帰らないと」
私は慌てて、時計を確認しました
結構長い時間、お話していたように感じましたが、時間は入ったときからほとんど経過していませんでした
「そうですか、お引止めして申し訳ありませんでした」
「いえ、こちらこそ何のお店かも知らずに」
「ハハハ、そんなことはお気になさらずに」
「それじゃあ、失礼します」
私は一礼して、その場を立ち去ろうとしました
「あっと、お嬢さん」
「はっ、はい?」
 呼び止められて振り向くと、男性は先ほどとは違い、少しばかり神妙な面持ちになって言いました
「一つだけ伝えておくことがあったのを忘れていました」
「……何ですか?」
私は恐る恐る尋ねます
「恐らくですが、お嬢さんはもう一度、ここへ来ることになるでしょう。もしもう一度ここに来るとき……
その時には、あなたの心の内に秘められた願い、それが何なのかをしっかりと考えてからいらしてください」
「私の……願い?」
「いいですか?答えが一つとは限りません……それをお忘れなきよう」
そう言うと男性は、私に一本の可愛らしいピンクの傘を差し出してきました
「まだ、雨は弱まっていないようですのでよろいければお使いください。差し上げます」
「そんな、大丈夫です。走ればここからすぐなので」
「お気になさらず、お嬢さんが使わなければ納屋に戻されてしまうのですから。どうかこの傘を助けると思って」
何度か押し問答を繰り返した後、結局私はそのご好意に甘えてしまいました。
「それではお嬢さん、お気をつけて」
男性は、私をドアの前まで送ると、うやうやしくお辞儀をされました
最後まで礼儀の正しい方で、まるでどこかのお姫様になったような気分でした

浮ついた気持ちのままドアを開けると、私の目に驚くべき光景が飛び込んできました
「キキィーッ!」
聞いた覚えのあるブレーキ音が響き渡り、目の前で歩行者の女性と男性の乗った自転車がぶつかりそうになったのです
「ちょっと、どこ見て運転してんのよ!」
「スイマセン、雨にハンドル取られて……」
そのお二方は、私がお店に入る前に肩越しに見た方達と非常に似ていました
いえ、恐らくですが……まったく同じ方だったように思えます
「どういうことでしょうか?」
私は振り返り、ドアのガラスからお店の中を覗きましたが、
お店の中はいつの間にか真っ暗になっていたのでした


「ただいま~」
自宅のドアを開けて中に入ると、お母さんが私を出迎えてくれました
「おかえり~、ってあらあらびしょ濡れじゃない?傘持ってるのに何でそんなに濡れてるの?」
「今日は傘を忘れたんですが、途中で親切な人が貸してくれたんです」
言いながら私は、靴を脱ぎました
「へぇー、親切な人もいるものだわね」
お母さんは、持ってきたタオルで私の頭をガシガシと拭き始めました
「これでよし。風邪引かないように早く着替えなさい」
「はぁ~い」
言いながら靴を脱ぎ、二回の自室へと向かいます
部屋に入ると電気をつけて、濡れた服を着替えベッドに倒れ込みました
「あのお店は一体何だったのでしょうか?」
枕に顔をうずめながら、私はあの店に居た男性のお顔を思い浮かべました
(何か叶えてほしい望みはおありかな?)
男性はそう言っていました
望み……
私の望み……
(『時間』をいただいて叶えております)
男性の言動を思い出してみると、やはり彼の言動を信じられない気持ちが沸いてきました
(お嬢さんはもう一度ここへ来ることになるでしょう)
でも、その時は不思議なことに「何でそんなことが分かるんですか?」と、聞きかえしたりせず、私は男性の話を黙って聞いていました
作品名:能無し堂へようこそ 作家名:サクラテツ