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サクラテツ
サクラテツ
novelistID. 18216
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能無し堂へようこそ

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一人で、家から離れて、ずっと……

プレイルームに残って、詰め将棋を解くという元治さんと別れて私たちは病室へ戻ることにしました
和葉ちゃんは病室に戻ると、
「あ~、頭使った~。甘いもの食べたい~」
と言って、ベッドに倒れこみました
私がベッドの横のイスに越しかけながら、
「元気そうで安心しました」
と言うと、
「何言ってんのよ。昨日来たばっかじゃない」
と笑われてしまいました
「昨日は昨日、今日は今日ですよ~」
正直なところ、和葉ちゃんの性格を持ってすれば病院だろうとどこだろうと、寂しいということは無いというのは分かっています
それに、今は病状も安定しているので急に容態が急変したりと言うことが無いと言うことも……
ですが、あの日和葉ちゃんが私の目の前で倒れた日、胸に走った痛みを私は忘れられずにいました
「昨日和葉ちゃんが元気だったからと言って今日も元気とは限らない」
そういった思いが私の足を病院へと向けさせているのでしょう
「ん?どうしたの?私の顔に何かついてる?」
ですが、無邪気に笑う和葉ちゃんの顔を見ていると、不安は消え、代わりに何か暖かいものが満ちてくるのを感じました
「何でもありません、和葉ちゃん大好きです」
私は思い切って、和葉ちゃんの上に倒れこみました
「ぐぇっ、いきなりどうしたのレンちゃん?てか私病人だぞ~!」
「そんな元気な病人はいませ~ん」
私たちは二人でゲラゲラと笑いました
後で、看護師さんに怒られたのは言うまでもありません



帰り際、私は一本のビデオを和葉ちゃんに渡しました
「はいこれ、頼まれていたビデオです」
「わぁ~い、ありがと!」
「そのドラマ、ともちゃん達も好きでよく話してるんですよ」
「へぇ~、人気あるんだ?」
「ストーリーが良くってキュンとするらしいです。それとみんなハセジュンがカッコいいっていってました」
「ああ、支倉純でしょ?確かにカッコイイけど私はハセジュンよりも……」
和葉ちゃんは、ベッドの脇に置いてあった雑誌を取り出すと、
「この人だなぁ、菅野智明!」
そう言って若手俳優特集のページを見せてくれました
菅野智明という俳優さんは、主人公のハセジュンこと支倉準の恋敵としてドラマにも登場していますが、
和葉ちゃんが菅野智明のファンだというのは初耳でした
「どうよ?良くない?」
言われて私は写真をマジマジと見つめました
確かに笑顔はとても素敵ですが、カッコいいと言うよりは……
「ねえねえ何とか言ってよレンちゃん」
「落ち着きます」
「へっ?」
「何となく落ち着きます、この人の顔」
「落ち着くって、お父さんの顔見てるわけじゃないんだから、もっとカッコいいとかさぁ」
そんなことを言われても、なぜか写真を見ているとほのぼのしてしまうのですから仕方がありません
それにしても初対面(写真でも言うのでしょうか?)の方を見て落ち着くのはなぜでしょうか?
私は少し考えてある結論にたどり着きました
「ハル君の顔に少し似てますね、だからでしょうか?」
それを言った途端、和葉ちゃんの手に握られた雑誌がバサリと床に落ちました
私は、慌てて雑誌を拾うと和葉ちゃんに渡そうとしたのですが、
なぜか和葉ちゃんの顔は、先ほどのハル君のように赤くなっていました
「あの、どうしたんですか和葉ちゃん?熱があるんですか?」
心配になって、私は和葉ちゃんのおでこに手をあてました
すると明らかに体温があがっているのが分かりました
「大変です、ナースコール……」
「ちょっと待って!」
「……和葉ちゃん?」
「大丈夫だから……熱じゃないから……何でもないから……」
和葉ちゃんは私の腕を掴んだまま俯いてしまいました
「あははははは、ちょっと興奮して熱くなっちゃったみたい、あ~、熱い」
和葉ちゃんはそう言っていましたが、室内の空気はエアコンで少し肌寒く感じるくらいでした
「あ、ほらもう五時だよ。お母さん待ってるだろうし、そろそろ帰ったほうがいいんじゃない?」
言われて時計を見ると、時刻は五時を五分ほど過ぎた辺りでした
「ゴメンなさい、あんまり長居するつもりじゃなったんですが」
「いいって全然。ていうか来てもらってるの私のほうだしね」
私は鞄を取ると、イスから立ち上がりました
「それじゃあ、和葉ちゃん。また来ますね」
「ありがと、でも毎日じゃなくていいからね!」
私は小さくバイバイをして病室を後にしました


病院の外に出ると、まだ夕方だと言うのに空は既に暗くなっていました
見上げると、雨雲が広がっています
私の中では、降水確率が40%を越えた日には、念のため折り畳み傘を持って行くというルールがあるのですが、
今朝の天気予報では30%だったので、残念ながら持ってきていません
仕方なく私は、雨が降り出さないうちに走って帰ることにしました
しかし、病院の入り口から走り始めて数分後、そんな私の努力をあざ笑うかのように雨は降り始めました
私は、空に向かって「イジワル」と恨めしそうに呟きました
すると、雨脚が急に激しくなってきたので今度は「ゴメンなさい、ゴメンなさい、先ほどのほんの出来心です!」
と、悲鳴を上げながら雨の中を走るのでした
しばらく走っていると、私はあの並木通りにやって来ました
いつもは人々の憩いの場となり、雑貨屋や家具やを訪れる人たちでにぎわう並木通りも、この雨では人通りも少なく、寂しく感じられます
「そういえば」
私はふと、今朝目に入ったあのお店を思い出しました
「確か『Good for~』……」
雨の中を歩きながら、今朝のお店を探します
そんなことをしていて大丈夫なのかと思われてしまうかもしれませんが、既にずぶ濡れだった私は、半ば開き直っていました
「……あっ」
しばらく歩き回っていると、今朝見たあのエメラルドグリーンの看板が目に入りました
改めて、そのお店を目にして思うのは、やはりそこは以前は空き地だったということです
いつの間にこのようなお店が出来たのか、毎日ここを通っていた私には不思議でなりません
「えっと『Good for noting』かしら?」
看板の文字はそう読めました。
「良いところがない……と訳すのかしら?」
お店の名前にしては変な名前です
外から見ている限りでは、アンティークの雑貨屋か何かのようですが、何のお店なのかはイマイチよく分かりません
せっかくですから、私は雨宿りがてらそのお店を覗いてみることにしました
小走りで店の前まで来ると、最近出来たにしては随分と年季の入ったドアを開けます
すると、

「キキィーッ!」

と、突然後ろで自転車のブレーキ音が響きました
私はその時既に店の中に足を踏み入れていたのですが、自分の肩越しに、
自転車と歩行者が衝突しそうになっているのが見えました
ドアを閉めた後、どちらかが怪我をしてなければいいなと思いましたが、その後外からは何も聞こえてこなかったので
きっと事故にはならなかったのでしょう
「おや、これはこれは可愛らしいお客さんだ」
突然、穏やかな声が響きました
ドアノブを握っていた手を離し振り向くと、そこには背が高くてシルクハットを被った男性がこちらを見つめていました
「お、お邪魔します」
「はい、いらっしゃいませお嬢さん」
作品名:能無し堂へようこそ 作家名:サクラテツ