小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
サクラテツ
サクラテツ
novelistID. 18216
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

能無し堂へようこそ

INDEX|2ページ/7ページ|

次のページ前のページ
 

三時限目の世界史の時間に、落とした消しゴムを拾おうとしたともちゃんがイスからひっくり返ったり、
クラスで一番のお調子者の片桐君が授業中にマンガを読んでいるのを見つかって廊下に立たされたりした以外は、平和なものでした
お昼休みになると、ともちゃんの他にあけみちゃん、かなこちゃんといった仲の良い友達が集まってきて、いつもの様に4人でお弁当会となりました
お弁当を食べている間の私達の会話は、最近流行っているドラマの話題で持ちきりでした
「もうさ、ハセジュンが超カッコよくって~!」「そうそう、ヤバイよね!あんな告白されてみたいな~」「あ~、それに比べてうちの男子ってなんで……」
ともちゃん達3人はとても楽しそうに、ドラマの話をしています
私はというと、お弁当の卵焼きを一口サイズにするのに必死になっていました
「ちょっとレンコン、あんたも会話に参加しなさい」
ともちゃんが私の頭を鷲づかみにして、私の顔をお弁当から引き剥がしました
「ともちゃん、頭痛いです」
私は頭を振ることでささやかな抵抗を試みましたが、ともちゃんの女の子にしては大きな手は離してくれません
ともちゃんは、私の頭でひとしきり遊ぶと、
「レンコンの頭ってば、相変わらず小っこくって握りやすいわねん」
と言って、やっと手を外してくれたのででした
実は、私はドラマ自体は毎週見ていて、内容もよく知ってはいるのですが、皆の様にお熱を上げているわけではありませんでした
というのも同年代の女の子たちに比べて、どうも私は精神がお子様なようで、恋愛ドラマというものを見ると、
自分とは関係ない、どこか別の次元で起こっているお伽話の様に感じられるからなのです
「仕方ないよ、とも。レンコンは好きな芸能人とかいないしさ、興味ないこと押し付けんのかわいそうでしょ」
そうフォローを入れてくれたのはあけみちゃんでした
あけみちゃんは、キレイな黒髪の美人さんで、男の子からの人気がとてもある女の子です
同性の女の私から見ても、まるでお人形さんのようで、身近に居ながら憧れの存在です
「そうそう、あけみの言うとおり、それにドラマ見てるのだって妹さんのためなんでしょ?」
かなこちゃんがから揚げを口に運びながら言います
「妹」という単語を聞いたともちゃんが「むぅ」と唸ります
「そういえば」
私は、思い出して口を開きました
「今朝、並木通りで新しいお店をみかけたのですが皆さんはご存知でしたか?店の名前が確か「Good」から始まるのですが」
あけみちゃんとかなこちゃんは、あの並木通りをあまり通らないそうで知らないようです
ともちゃんも
「私は、レンコンと一緒で毎日あの道通ってるけど、新しい店なんてあったっけ?」
とのことでした
う~む、おかしなこともあるものです
今まで、少なくとも高校生になってからは毎日あの道を通っていたはずなのに、
今日になって初めてそのお店の存在に気づく、なんてことがあるのでしょうか?
「また、レンコンの勘違いじゃないの?ほら、この前のコンニャク事件みたいにさ」
コンニャク事件というのは、私がお弁当箱と間違えて袋入りのコンニャクとお箸をお弁当袋に入れて持ってきた事件のことです
「どこをどう間違えたらお弁当箱がコンニャクになるのよ」と、ともちゃんにつっこまれ、
最終的には、味のしないコンニャクに果敢にかぶりつくという世にも珍しい昼食を味わったのでした
「勘違いじゃないですよ。確かにこの間までは無かったはずなんです」
そこまで言ったところで、あけみちゃんが時計の時間に気づき慌てだしました
「ヤバッ、次の時間教室移動あるから早く準備しないと」
言われて時計を見ると、お昼時間は後10分を切っていました。どうやら、ドラマの話に夢中(私はあまり参加していませんが)になって
時間を忘れてしまっていたようです
私たちは、昼食をお腹に入れた後、そろってご馳走様を言って席を立ちました



放課後になると、部活に行くというともちゃんとあけみちゃんにさようならを言って、私は教室を後にしました
今日は部活が無いと言っていたかなこちゃんは、部活の先輩のカラオケに誘われているそうで、
「これも付き合いってやつなのよ」とサラリーマンのおじさんのようなことを言って一足先に行ってしまいました

一人になった私が廊下を歩いていると、後ろから声を掛けられました
「レン!」
少し低い男の子の声
私をレンと呼ぶのは一人だけですので、私にはすぐのその声の主が分かりました
「どうしましたか、ハル君?」
私は振り返って言いました
「ハル君はやめろっつーの」
そう言うと彼――音山春一君は私の頭にでこピンをしました
「別にいいじゃないですか~、幼稚園のときからハル君はハル君なんですから」
私はでこピンをされてツクツクするおでこをさすりながら言いました
「いい年して君付けすんなよな~。この前、レンのおばさんにもダチの前で『ハルく~ん』とか呼ばれて恥ずかしかったんだぜ?」
ダチというのは友達の略だとこの間教わりましたが、君付けの何が恥ずかしいのかは未だに分かりません
「それでは、ハル君のことは何て呼べばいいんですか?」
「普通にハルでいいよ」
「それじゃあ、今度から気をつけるようにします」
「おう、頼むぜ!」
「それで、どうしたんですかハル君?」
ハル君は大きなため息をつきました

「今日もカズハのとこ行くのか?」
隣を歩くハル君が言います
「カズハ」というのは私の双子の妹の和葉ちゃんのことで、ハル君とも当然幼馴染なのでした
ちなみに、ハル君は、バイト先に向かいがてら、一人で寂しそうな私と一緒に帰ってくれるとのことでした
「はい、毎日のえっとるー、るー……」
「ルーティーンワーク?」
「そう、それです!」
「使い慣れないなら、日課っていやあいいじゃねえか」
ハル君は呆れたように笑いました

「それにしても、ほとんど毎日だろ?大変じゃね?」
「いいえ、そんなことないですよ……」
そうなのです、「日課」なんて少しの根気があれば続けられるもので、大変の内には入りません
本当に大変なのは……

「おい、レンどうした?」
ハル君の声で私は我に帰りました
どうやら、ボーっとしていたみたいです
私は二つのことを同時に出来ない性質のようでして、考え事をしながら歩くと意識が頭の奥の方に閉じこもってしまうのです
「あぶねえなぁ、信号赤だったぞ」
見ると、ハル君の言うとおり目の前に横断歩道がありました
もし一人だったらと思いと、少しだけ背筋がブルブルと震えました
「まったく、レンは昔っからおっよこちょいだよな」
「ハル君は昔から面倒見がいいです」
「なっ、何いきなり出だすんだお前は」
レン君は顔を真っ赤にして言いました
私は昔から思っていることを言っただけですので、なんでハル君が顔を赤らめたのか分かりません
「どうしました、もしかして熱でもあるんですか?」
背伸びして、ハル君のおでこに手を当てようとすると、
「やめろって、何でもねえよ!」
ハル君が私の手を掴み上げました
その瞬間オチビさんな私は、よろよろとヨロめいて、丁度ハル君に抱きつくような形で寄りかかってしまいました
ハル君は背が高くて、私が寄りかかると顔が丁度胸の位置に来ます
作品名:能無し堂へようこそ 作家名:サクラテツ