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サクラテツ
サクラテツ
novelistID. 18216
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能無し堂へようこそ

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私がそのお店にお世話になったのは確か16歳の夏でした
その年は丁度、妹が退院した年で、妹にとっても、もちろん私にとっても、思い出深い年だったのを覚えています

そのお店は、夏の日を受けて鮮やかさを増した並木通りの、ほんの一角に構えられた、小さな小さなお店でした
誰がどうして、何のために作ったお店なのかは今でも分かりませんし
これからも、知ることはないでしょう

ですが・・・・・・私がそのお店でもらった、かけがえのない思い出たちは
今でも私の胸の中の小さな宝石箱にしまってあります

夏の青い日差しと、青い空
湿り気をふくんだ柔らかい空気に短い影

月日が流れた今も、夏が来ると、あの店のどこか懐かしいような店構えと
その中で一人、無限の時間を旅する、優しいあの人の顔を思い出すことが出来ます



あの人は今頃、どこを旅しているのでしょうか?

願わくば、あの人の無限の旅路に、素敵な「時間」が流れますように・・・・・・



「それじゃあ行ってきます!」
私は元気な声でお母さんにそう言いました
朝の挨拶は一日の始まりにあたって、もっとも大事なことの一つだと教わったし
事実そうであると私は考えます
「はいは~い、気をつけて行ってらっしゃいな」
お母さんはいつものように笑顔で私を見送ります
お母さんいわく、笑顔も重要な要素の一つとの事ですので、
私は頬っぺたをグニグニと引っ張って笑顔をつくり
「行って来ます!」
ともう一度言ってから家を出ました

家を出ると私を迎えたのは、サンサンと照る大きなお日様でした
「おはようございます!」
私はお日様に向かって言いました
当然のことですが、お日様は返事をしてはくれません
いつものことではありますが少しだけ寂しい気もします
ですが、朝からくよくよしている場合ではありません
私は気を取り直して元気よく歩き出しました
しばらく歩いていると、
「おはよう、レンコン!」
親友のともちゃんに会いました
ともちゃんは私の小学校の頃からの友達で、明るくてスポーツのとても上手な活発な女の子です
ちなみにですが、レンコンとはわたくし天野蓮子のあだ名です
レンコンの様に色が白いからと、ともちゃんが付けてくれたもので
今では友達のほとんどが私のことをレンコンと呼びます
「夏だってのに相変わらずあんたは白いね~。それにくらべて私なんかさ~」
私の腕を取り、自分の腕と比べながらともちゃんは言います
陸上部に所属していて、週のうち五日間は外で走り回っているともちゃんの浅黒い肌は
女の子なのに失礼ですが、とても逞しくみえ
帰宅部で、肌の焼ける機会の少ない私には、むしろ羨ましく思えました
「ともちゃんは黒い方がカッコいいですよ」
「女の子がカッコよくたって仕方ないでしょうが」
ポカリと軽く頭を叩かれてしまいました
少しだけ痛かったけど、それは中々楽しい痛みでした

通学路の途中、一本の長い並木通りにでました
そこは道の真ん中に銀杏の木が並び、両側を古本屋や家具屋や雑貨屋などの小さな商店が建ち並ぶ、少し変わった通りでした
木の周りには、沿うようにベンチが並び、町の人々の憩いの場となっています
私はこの道が大好きで、一人の時はゆっくりゆっくりと周りを見渡しながら歩くのですが、
ともちゃんと一緒のときは、大股にズンズン歩いていくともちゃんの後を追いかけるのに精一杯で、
楽しむ暇がないのが少しだけ残念です
「ほらほら、急がないと遅刻しちゃうよ」
登校時刻まではまだ余裕がありますが、せっかちなともちゃんはドンドン先に歩いていってしまいます
チビで運動神経のあまり良くない私は、これ以上スピードを上げられたら
心臓がオーバーヒートを起こしてしまうのでは無いかと不安になりました

その時でした

「あれ?」
小走りでともちゃんの後を追いかける私の目に、一件のお店が飛び込んできました
(あんなお店あったかしら?)
そのお店は、初めて見るはずなのにどこか懐かしく感じられるたたずまいと、
とてもキレイなエメラルドグリーンの看板を掲げた、小さな小さなお店でした
(えっと、Good for……)
看板に書いてある文字を読もうとしたとき、
「レンコン!おいてくよ!」
という、ともちゃんの大きな声が聞こえてきました
見ると、ともちゃんは既に10メートルほど先にいてこちらを振り返っているところでした
「ごめ~ん」
私は一度だけ振り返って先ほどのお店を見た後、慌ててともちゃんに追いつきました

並木通りを超えて更に歩いていくと、大きくて立派な門が見えてきました
私達の学校の門です
門には、同じ学校の生徒たちが吸い込まれるように入っていきます
登校時間が迫っていることもあり、歩いていると同じクラスの人たちも集まってきました
友達たちは口々に
「おはよう」とか「昨日のドラマ見た?」、「今日の数学当たるんだけどノート見せてくれない?」
などの会話をしながら、次々と私とともちゃんの横に並んでいき気づくと七人が横並びに歩いている状態になりました
もしもこのままクラスの友達が増えていき、その長さが校門の幅を超えてしまったら
誰かがぶつかってケガをするのではないか?と心配になったのですが、
それ以上列の長さが伸びることは無かったので、私たちは無事に校門を抜けることが出来ました

教室に入ると私は、自分の席へと向かいました
私の席は窓際の列の一番後ろにあり、ともちゃんからはよく
「いいなぁ~、授業中寝放題じゃない」
と羨ましがられます
私は残念ながらオチビさんなので、一番後ろの、しかもこのような教室の端の席だと黒板が見にくくて、
板書をするのにも一苦労だったりします
「だったら、変わってよ」とこれまたともちゃんによく言われてしまうのですが、
ここから見える外の景色が私は好きなので、変わってはあげませんでした(私は意地悪でしょうか?)

チャイムが鳴って、朝のホームルームも終わり授業が始まりました
一時限目は数学だったので、私は鞄から数学の教科書とノートを取り出して、授業に臨みました
授業中、板書を取りながら、時々窓の外に目をやります
私のクラスの教室は校舎の三階にあったので、窓からは商店街や住宅街や公園が見渡せました
視線を、どんどん遠くに向けていくと、やがて一つの建物に目が止まりました
それは、小高い丘の上にある、真っ白い建物で、この町に済むほとんどの人が、一度はお世話になったであろう大きな総合病院でした
しばらく、ぼぉっと病院の方を見ているとポンポンと誰かに頭を叩かれました
私が振り向くとそこには数学の先生がニヤニヤしながら私を見下ろしていました
先生が、「あまの~、いくら天気がいいからって外ばっか眺めてるとその内鳥になって飛んで行っちまうぞ」
と言うと、クラスのみんなも笑いました
窓の外を眺めているだけで鳥になれるのならば、是非ともなってみたいものです
「鳥になるならペンギンがいいな」と思いましたがペンギンは飛べないので、窓から颯爽と飛び立ってもすぐに落ちてしまうでしょう
ペンギンは北極と南極のどちらに住んでいたかかしらと考えながら、私は大人しく授業に戻りました

その後も授業は滞りなく進みました
作品名:能無し堂へようこそ 作家名:サクラテツ