スタートライン (1)
山の麓へ到着した。交差点の信号が点滅信号に切り替わっていたので左右を確認し、車が来ていないことを確かめると、停止せずに勢い良く助走をつけた。そのまま一気に登りのワインディングへ挑む。
「気合っ!」
なんとなく掛け声をかけた。
順調に中腹まで登るも…………力尽きる。
「くっ、もうっ! だ、だめっ!」
『ガシャン』
ギリギリまでペダルに食いついていたせいでバランスを崩して横に転倒した。
膝を突いた私の横で車輪がカラカラと回っている。
「痛ったぁ……」
最後はほとんど停止状態からの立ちゴケだったので、怪我をすることはなかった。なんとなく悔しさが残った。学生時代に登りきった実績もないし、よほどの健脚の持ち主でもなければ、到底、ママチャリで登れるような坂では無いこともわかっていたはずだ。なのに、なぜかチャレンジする気になってしまった。なぜなのだろうか。
『どうしたの? なにか突き動かすものでもあったの?』
「なんだろうね。よくわかんないや」
自問自答。昨日までの私と、今の私。
膝についた汚れを払い落とし、ゆっくりと立ち上がる。自転車をそっと起こす。勢いでカゴから飛び出したコンビニ袋を拾い、カゴへ押し込んだ。残りの百メートル程は歩いて登ることにする。
ほどなくして坂を登り切った。そこには駐車帯があり、一応、展望台になっている。ここもなかなかの展望なのだが、私の「秘密の場所」に比べれば、あくまで「普通」の展望台だ。長居はする必要はない。サッと再び自転車に乗り込むと、展望台を後にし、目的地を目指す。
作品名:スタートライン (1) 作家名:山下泰文