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「まぁ、いかにも、だね。君は? 学生?」
「いいえ。フリーターってやつです」
 もっとも、つい一時間くらい前に無職になりましたが。
「そう。じゃ、バイト帰りかな」
「はい」
「さっきは驚かせて悪かったね、キャンプできるところを探していたらたまたまここに迷い込んでさ。人気も無いし、展望も良いしで絶好の場所だったから」
「そうなんですか。いいんじゃないですか、別に」
 弱みを見せない為とはいえ、もうちょっと愛想良くできないものか。我ながら性格悪いな。
「はは。じゃあそうさせてもらうよ」
 そう笑うと彼は私の脇を通り過ぎると、テントの傍らに置いてあったパイプのイスに腰掛け、コンロのようなものに火をつけた。そこに鍋を置き、ペットボトルからミネラルウォーターを取り出すと、ガポガポと鍋に注ぐ。私はその様子を遠めにじっと見つめていた。しばらくすると鍋から湯煙が立ち始める。続いてなにやらスーパーの袋のようなものから食材らしきものを取り出す。よく見るとアルバイト先のスーパーの袋だ。印象的なニコニコマークのロゴが遠目にも目立っていた。水を一煮たちさせると、なにやら液体を鍋に投入、蕎麦と蕎麦つゆだろうか。なんと鍋のまま食べ始めたから驚いた。先ほどまでの緊張した面持ちと違い、なんとも楽しそうな様子で麺を食べている。お腹が鳴った。そういえば、晩御飯まだだったな。腕時計に目を落とす。九時を回ったところだった。まだ家に帰るには早い。再びブランコに座る。彼の様子を見守りながら、今度はゆっくりと漕いだ。
 園内にズルズルと麺を啜る音が木霊する。雰囲気が代無しだと言いたいところだが、公園の片隅でバイクとテントを傍らに食事をしている彼の姿は、なんとも叙情的であった。バイトで帰宅が遅くなり、一人食卓で食事をすることが多い自分よりも、野宿をしている彼の方が生活感が滲み出ていた。不思議なものだ。
 食べ終えたのか。手を合わせご馳走様の仕草をすると、スーパーの袋と鍋を手にこちらへ向かってきた。もう、警戒心は無くなっていた。黙って彼を見つめる。ブランコに座る私の前までやってくると、スーパーの袋をあさり、プリンを取り出した。
「食べるか? デザートだ」