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「ああ、いや、別にずっとコソコソしながら覗き見していたわけじゃあないんだよ。なんていうか、出て行きにくかっただけだよ。そう、出て行きにくかっただけ」
「……」
 同じ言葉を繰り返すのが癖なのだろうか。自問自答のような喋り方が耳についた。
「変質者でも無いぜ? 浮浪者でもないよ? ここで野宿するつもりでいたんだよ。野宿。あれでツーリング中でさ。あれで」
 男は私の後ろの茂みを指差して示した。
 そこには見慣れない物があった。グリーンのテントと、その傍らにバイクが停めてあった。黒いバイク。いや、青だろうか。暗くてよくわからないが車体のメッキ部分らしき場所がキラキラと光っている。茂みがカモフラージュになるように停めてあるせいか、園内に入ったときにはまったく気が付かなかった。いや、気がついていたら今日のところは引き返していただろう。
「ところで、ここってキャンプは駄目なのかなぁ」
「知りません。でも車両の乗り入れは禁止だと思いますけど。芝生が痛みますし」
「ああ、芝生には入っていないよ。そういったルールがあるキャンプ場もあるからさ、一応は気を使っているつもり。ペグの穴もちゃんと埋めてくよ」
「私、別に管理人じゃありませんから」
「ああ……そうだね」
「……」
「……」
 黙っている私に対し、バツが悪そうに再び帽子を取っては、頭をかく。今夜は寒いくらいなのに汗もかいているようで、何度も汗を拭う。少し可笑しかった。未だ警戒心はあったが、オドオドしている彼が少し可哀相になり、声を掛けた。
「お兄さんはバイク乗りってやつですか?」
「バイク乗り?」
 なんでそんな事を聞いたのだろう。自然と口に出していた。
 すると振り向いた彼の眼鏡が、上気した体温のせいか、湯気で曇っているではないか。思わず苦笑しそうになったが、行きを押し殺して耐えた。