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パチパチパチ……

「!?」
『なに? 手を叩く音。拍手?』
 驚いて後ろを振り返る。
 そこには黒ずくめのシルエットがあった、月の明かりと、ブランコに設置された小さな照明では黒ずくめにしか見えない。思わず身構える。黒ずくめはこちらに向かって歩いてきた。近づくにつれ、だんだんとシルエットの正体がハッキリとしてくる。五メートル程まで迫ってきた、自分一人だと思い込んでたせいもあってか、突然の事で体が固まってしまっていた。身動きが、取れない。
 三メートル、表情が見える距離。髪の短い男性だ。
 二メートル。黒ずくめの正体は革ジャンにブラックデニム、黒いブーツの姿だった。
「やぁや、見事なジャンプだったね。着地も十点満点だったよ」
 男は腰に手を当て、とぼけたような口調で言った。良く見るとスプーンを口に咥えている。
「なんでしょうか……」
「なんでしょうか…って、なんなんでしょう」
 男は頭を掻いて苦笑いをする。私は笑えるような気分ではなかった。自分の世界に浸りきっていたシーンから一変、羞恥心に苛まれていた。恐怖心は、ない。弱みを見せてはいけない。そんな気になりジロリと男を睨みつける。男は私の曇った表情に困惑したのか「まいったな」というような顔をした。ポケットからこれまた黒色のハンチング帽を取り出すと、捻じ込むように被った。ついで咥えたスプーンを胸ポケットに入れた。汚い。だが、姿は怪しいが人柄は悪くなさそうだった。