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 視界が開けた。『展望の庭』へ到着した。
 天気が良ければ昼間は市内全体を見渡せる程の大展望台となり、夜は黒を基調にした光の絨毯が見下ろせる神秘的な展望台となる。さして標高が高いわけではないが、黒い空間の中にまばらにポツポツと光る光の粒を見ていると、自分が天上界かどこかにいるように錯覚するのだ。少しロマンチックすぎる表現かもしれないが、私にとっては大事な場所だった。函館や長崎の夜景ように豪華な金色の絨毯ではないかもしれないが、私にとってはスケールなどでは計れない、贅沢な空間だ。百万ドルなんて、私には使いきれない。
 庭の入り口に自転車を停める。中央にあるブランコに向かった。私の特等席だ。
 誰も見ていない。靴をブランコの下へ揃えて脱ぐと、ブランコに乗り、立ち漕ぎをする。前へ後ろへ、徐々に勢いをつけてゆく。地面との角度がみるみるうちに急になっていった。20度、30度、まだまだ、まだまだ……。
 鋼鉄のチェーンでつながれたブランコが勢いよく揺れる。耳にはゴウンゴウンと風を切る音が鳴り響き、目の前の景色は目まぐるしく上下にリピートして流れていく。
「もうちょい!」
 まるで子供だ。
 さらに勢いは増したが、地面から60度くらいの角度までいったところで気持ちにブレーキをかける。さすがに立っているのが辛くなったので、するすると、持ったチェーンを握ったまま、器用に手の平で滑らせしゃがみ込むと、椅子の部分に座りこんだ。
 足を振り、ブランコの勢いを調整する。心地よい具合で調整する。ブランコの揺りかごの中、夜の景色と秋の空気を思いっきり全身で飲み込んだ。

『このまま手を離して飛び出したら飛べるんじゃない?』
「ばっかじゃないの? 地面へ真っ逆さまであの世行きよ」

 今日はもうひとりの自分がよく出てくる日だ。
 「よ!  っと!」
 次の瞬間、ブランコの勢いをそのままに、前方へ跳んだ。
 空を舞う。
 ほんの数秒間の無重力。
 両腕を外へ。私なりの羽を広げる。
 ブランコから五メートルほど離れた芝生へ「ふわり」と着地。
 両腕を広げた姿勢のまま、空を見上げた。星がきれいだった。すぅーっと、大きく深呼吸。酸素を全身から取り込んでいく。降り注ぐ満月の光は私だけのスポットライトだ。