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CROSS 第6話 『死守』

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「…………」

 山口は一瞬、暗視装置ごしに見える「物体」が何だかわからなかった。しかし、すぐにその正体を察すると、自動小銃『SG−551』で、その「物体」を撃った。
 ……それは敵兵だった。暗視装置ごしに、その敵兵の頭から血が噴き出すのがわかる。
 倒れた敵兵は、その場に血だまりを広げていく。銃声を聞きつけて、隊員や兵士たちが駆けつけて来るのがわかる。
「なんだ、たった1人だけか……。斥候だろうな」
山口はそうつぶやいてほっとしたが、その倒れた敵兵の後ろに無数の敵兵がいることがわかると、顔をこわばらせて、バッジに触れ大きく口を開いた。
「敵襲!!! 前方だ!!!」

 山口のその声は味方全員に通信で伝わった。彼と椿がいる塹壕に向かって、大勢の隊員と兵士たちが、前方に向かって乱射しながら全力で駆けつけてきた。味方が撃った銃弾は、塹壕の前方にいる無数の敵兵たちに降り掛かり、先頭の敵兵からバタバタと倒れていった。
 敵兵たちは攻撃されていることに気づくと、大声を上げながら、こちらの塹壕に向かって突撃してきた。何人かの敵兵は地面に伏せ、塹壕に入ろうとする味方に向かって銃撃した。その敵兵の銃撃で、何人かの味方が撃たれ、塹壕にたどり着く前に倒れたり、塹壕の中に血を噴き出させながら飛びこんできた。山口のすぐ近くに、水色のCROSS専用のベレー帽に開いた穴から血を噴き出させながら飛びこんできた隊員は、塹壕の地面に勢いよく落ちた衝撃で首が個性的な方向に曲がっていた……。
 山口は伏せ撃ちしてくる敵兵を、突撃してくる敵兵たちとともに片付けていく。銃弾に当たった敵兵は、頭部に大きな穴を開けて死んだ。
 やがて、全員が塹壕などの持ち場についた。塹壕の中から味方が自動小銃などの銃で、暗闇の中、塹壕に突撃してくる敵兵を的確に片付けていき、粗末な造りでできているトーチカからは固定式の重機関銃が、敵兵に向かって「鉄の雨」を降らせた。時々敵兵の近くで起こる暗闇を彩る爆発は、塹壕からの手榴弾や後方にいる守備隊の迫撃砲によるものだった。その爆発にあった敵兵は、手足がバラバラになったり、臓物を飛び散らせたりして、もがき苦しみながら死んでいった……。
「地面に埋めてある対モビルスーツ地雷には気をつけろ!!!」
山口はそう叫ぶと、無我夢中で向かってきた敵兵を撃ち抜いた。椿は人間を殺せないため、敵がどこに隠れたかといったことを教えてやったり、弾倉を持ってきてやったりしていた。

 味方の応戦を奇跡的にくぐり抜けた敵兵が、塹壕の中に飛び込んできた。その敵兵は飛びこんだ勢いで、自動小銃の先に装着されている銃剣で目の前にいた味方の兵士の腹に突き刺した。銃剣はその兵士の体を貫通した。塹壕のランプの光が、背中から飛び出した銃剣の先を照らす……。
 その敵兵は、銃剣をその兵士の体から引き抜くと、その横にいた隊員にも襲いかかった。その敵兵の顔は、殺気で満ち溢れている。(『兵士』は守備隊の兵士のことで、『隊員』はCROSSの隊員のこと)
 隊員に向かって銃剣を向けた瞬間、その隊員の横から誰かが現れ、
敵兵の首を切った。敵兵の切られた首は、塹壕の壁に叩きつけられた。助かった隊員の目の前には、椿が包丁を構えて立っていた。
「正当防衛です」
椿は静かにそうつぶやいた……。

 これを境に、CROSSは勢いをさらに増した。塹壕の中の地面は空薬莢で覆いつくされ始め、その空薬莢をランプが照らした……。夕食の缶の中にも、空薬莢は飛びこんでいく。