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CROSS 第6話 『死守』

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「山口さん!!! 山口少佐!!! 起きてください!!!」

 山口はガバッと飛び起きた。彼の目の前にはウィルがいた。ウィルは驚いて、両手に持っていた缶の中身をこぼしそうになる。山口は塹壕の中で寝ていたらしく、すっかり夜になっていた。
「……ああ、すまないウィル。飯の時間か」
山口は両手で顔を隠しながら言った。それは泣いているようにも見えた……。やがて彼は、両手を顔からゆっくり降ろす。
「山口さん、悪い夢を見てたんですか? 汗がたくさん出ていますよ」
ウィルは山口に、左手に持っていた缶を手渡しながらおそるおそる聞く。山口は、ぐっしょりと汗をかいていた……。暑さによる発汗でないことはわかる……。
「……いや、たいした夢じゃない」
彼はそう言うと、スプーンで缶の中身を食べ始めた。中身は、具だくさんのチキンスープだった。大きな鶏肉が、コンソメスープの中に沈んでいる。
「……では、持ち場に戻りますね」
歩き去るウィル。

 山口は、誰かといっしょに食べようと塹壕の中を見通す。塹壕の奥の薄暗いところに椿がいるのが見えた。彼は、足元に気をつけながら、彼女の元へ向かう。
 薄暗くてわからなかったが、椿のすぐ近くにあるランプが消えており、椿は湯気が立っている夕食の缶をひざにのせたまま、塹壕の外側の誰もいないはずのところを黙って凝視していた。
「暗いじゃないか、ランプ付けるぞ」
山口はランプのスイッチに手を伸ばす。
 すると、椿が一瞬の早業で、彼の手首をつかんだ。それから、彼女は静かに口を開く。
「敵がいます。それもたくさんの」
椿の言葉を聞いた山口は、自分も塹壕の外側を凝視した。
 しかし、目の前の暗闇の中には、何も見えなかった。
「この目でも、敵が見えないぞ」
彼は、自分の目を指差した。
「匂いでわかります」
椿はそう言うと、缶を地面に置き、腰から包丁を抜いた。
「山口少佐。全員に暗視装置の装着と戦闘体勢に入るように伝えてください」
山口は黙ってうなずくと、缶を地面に置き、胸のバッジに触れる。
「守備隊を含めた全員に告ぐ。静かに多機能ゴーグルを装着して、暗視装置機能にしろ。そして、戦闘体勢に入れ。敵の夜襲の可能性あり」
その途端、談笑しながら夕食をとっていた隊員や兵士たちは黙りこむ。守備隊の少尉とその兵士たちは、とうとうこのときが来てしまったという悲しそうな表情をしていた。
 隊員と兵士たちは、素早く多機能ゴーグルを装着し、銃を手にして、戦闘体勢を整えていく。
「やれやれ。食事中を襲うつもりだったのかね」
山口は、独り言をつぶやきながら、暗視装置機能もある多機能ゴーグルを装着し始めた。
すると、椿が彼のそばに一瞬で移動し、
「静かに。すぐ近くにいる」
本当に小さな声で椿がささやいた。
「そうか? 全然気配を感じないぞ?」
山口はのんきな様子で、塹壕の外側を見た。