オルコンデリート(後編)
「ちょっと、あなた。いい加減にしてよ。こんな時に。何かあったかと思うじゃないの」
「申し訳ない。昨日はホントに混乱していて疲れてたんだ」
「そんなのこっちだって一緒よ」
「ホントに申し訳ない。留守電は聞いたよ。久坂さんは瀕死で見つかったって」
「そういうことなのよ。あなた、どうして新宿で見つかったって分かったのよ」
「詳しく説明したい。とりあえず会わないか?」
「そうね。会社はいいの?」
「これから電話しておく。どっち道、署にも行かなきゃいけないから」
「そう。じゃあ、後ほどってことで」
「了解」
すぐに会社に電話をすると、夕方には出社して事情を説明するように言われ、出勤を免れた。続いて署に電話をし、向島と共に出向く旨を伝えた。下尾辻は快諾した。三棚井は顔を洗って洋服を取替えて掛けた。
昨日と同じ署の近くのファーストフード店。店内の喫煙席は居心地が悪かったので、二人は外のテラス席に向かい合った。
「昨日は悪かったね」
「こちらこそ、お疲れのところ申し訳なかったわね。状況が状況だったから、なるべく早く伝えたいと思ったのよ」
向島は小さく嘆息を漏らした。
「久坂さんの見つかった様子は留守電に入れた通りよ。意識不明の重体で病院に担ぎ込まれたわ。それで、何で新宿に居ると分かったの?」
「DVDとブログだよ」
「DVD?昨日もらったDVDのこと?」
「ああ、その映像の中に、久坂さん、結構映ってたんだ。彼女、元々ファンクラブの会長で、マネージャーになる前からピカンテにべったりだったようなんだ」
「ブログは?」
「彼女はファン層の拡大と、ピカンテの世界観を広く知ってもらうために、ピカンテにまつわる全てをデータベース化してたんだ。一週間前まで更新していた。そのブログの一番最初に、ピカンテのライブを初めて観た時のことが綴られている。そのライブ会場が、新宿の歌舞伎町だったんだよ」
「それでどうして、久坂さんがそこに居たって分かったの?」
「久坂さんが事件を起こした前提なら、自分が一番帰りたい場所に行くんじゃないかと思ったんだ。ピカンテとの出逢いは、相当深い思い出だったらしい。自分が影響を受けた当時の気持ちを、もう一度蘇らせたかったんじゃないかな」
作品名:オルコンデリート(後編) 作家名:佐藤英典