オルコンデリート(後編)
『このブログを始めるに当たって、最初に皆さんにお伝えしておきたいことがあります。
私とピカンテとの出逢いについて、お伝えします。(ただの思い出話なので、読み飛ばしてもOKです)
私が初めてピカンテの曲を聞いたのは、中学二年生の時です。本屋さんに参考書を買いに行った時に、店内の有線放送で初めて彼らの曲を耳にしました。
デビューアルバム『イニシエーション』からのシングル『神様との約束』でした。
綺麗なメロディラインが自然に耳に入って来たのを、良く覚えています。聞くというよりも、耳に音が滑り込んで来る感じで、気が付いたら曲を聞き入ってしまっている自分に、ビックリしたことを覚えています。比留間さんの透き通る声で、初めて聞く曲なのに、まるで自分がその曲の歌詞を知っていたみたいに、頭の中に言葉が見えました。サビの歌詞「僕は生まれる、僕は生まれる。何度でも何度でも」。その言葉を聞いていたら、なぜか涙が溢れて来て、止まらなくなったんです。本屋さんで人目もあるのに、私は気にせずに涙を流していました。その一瞬でピカンテの音楽に心を奪われてしまいました。
当時、私は学校でいじめに遭っていました。小学校の時に父親を亡くして、母との二人暮らし。中学に上がると生活が苦しかったから、朝夕新聞配達のバイトをさせられていました。みんなが遊んでいる時間になかなか一緒に遊ぶことが出来ず、母が水商売をしているせいもあって、自然にみんなからのけ者にされていました。誰とも口聞いてもらえなかったんです。母とも生活時間が違うから、会話はほとんどありませんでした。
何で自分はそんな環境に生まれて、どうしてお父さんは死んでしまって、何のために生きていくのか、分からないでいました。私を孤独にした世の中を、いつか絶対見返してやるんだって、固く固く心に誓っていた時期です。
そんな時に『神様との約束』を聞いて、私は自分が生かされていることについて、何か意味を与えられたような気がしました。今ある現実が辛くても、今思い通りに行かないことがあっても、何度でも生まれ変われるんだって。まるで自分のために、語り掛けてくれているような気がしたんです。そう思ったら、涙が溢れて止まりませんでした。この曲は私のための曲なんじゃないかって、信じるようになっていました。そんな訳ないんですけど。私はそう思いたくて、それを確かめたくて、ライブを観に行くことにしました。
初めて行ったライブハウスは、新宿の歌舞伎町にあって、辿り着けるかどうか本当に心配でした。それでも一目でもこの目で見たいと、怖い人が沢山いる繁華街にバックを抱えながら踏み入りました。会場の入り方が分からず、その場で三十分もウロウロしていると、リハーサルを終えたピカンテのメンバーが裏口から現れました。そして戸惑う私に、声を掛けてくれたんです。背格好が小さかったから、私のことを小学生と勘違いしたらしく「どこから来たの?」と微笑んで声を掛けてくれたんですね。私も興奮して、たどたどしく喋っていたものだから、仕方なかったかも知れませんね。もう何をしゃべったのか覚えていませんが、恐らく変なことを言っていたと思います。
ライブはメンバーの配慮で、ステージの柵の内側から観させてもらうことが出来ました。
あの日、メンバーと出逢えたことと、こんな私を温かく迎えてくれたこと、今でも忘れらない。あの日から、イジメの辛さも自分の置かれた環境の辛さも、全部忘れて暗い思春期を乗り越えて行くことが出来たと思います。
私はこのブログを通して、ピカンテのことを、多くの人に知ってもらいたいと思います。私がピカンテから受け取った温かさを、これからバンドを知る皆さんに、お返しして行ければと思います。
自称五人目のピカンテ ひみ 』
作品名:オルコンデリート(後編) 作家名:佐藤英典