オルコンデリート(後編)
続いて『久坂日見湖』と検索を試みた。長州藩士の『久坂玄端』にまつわる内容の情報が検索に上がって来る。久坂玄端の出生の地や、果たした役割、高杉晋作との関係など。後は二十一歳の若さでこの世を去った女性作家『久坂葉子』にまつわるもの。久坂葉子なる人物は、4度も自殺未遂を重ねている。五回目にようやく死ねたのは、良かったのか良くなかったのか。三棚井は口を覆った。
フルネームでは見つけられない。今度は『久坂』と『ピカンテ』と検索を掛けた。これまた作家の『久坂部羊』の名が上がって来た。『久坂部羊』とチーズ業者の広告にある『ピカンテ』が一緒に掲載されているページしかない。再度、『ひみこ』と『ピカンテ』で試みた。すると、検索の2ページ目に、三棚井はそれらしきものを見つけた。タイトルは『五人目のピカンテ ひみつの日和見』と題されたブログだ。
そこには、ピカンテに関する仔細な情報が綴られている。過去のツアーの日程から、ライブごとのセットリスト、メンバーの使用楽器からステージ衣装のことまで、こと細かく書かれている。また、過去にリリースされた全楽曲に関するエピソードも書かれていた。全曲を作詞作曲した比留間が曲を通して訴えかけている世界観や、その曲のモチーフになった題材やモデルについても、詳しく書かれていた。
ブログのアーカイブは2003年5月から始まり、最終更新日が一週間前になっている。三棚井はマウスホイールを転がしながら、一ページ一ページの記述を追った。掲載されている写真はDVDに登場しているものも少なくなかった。どうやら久坂は、元々ファンクラブの会長であったらしい・後にマネージャーに抜擢されたとの内容が綴られている。ファンクラブの会合の写真には、常に真ん中に久坂が居た。
三棚井は慎重に内容を読み進めた。ページを行きつ戻りつしながら、過去へ過去へと遡り、最後のページに行き着いた。2003年5月8日、最初の記事だ。そこには、久坂がピカンテを聞くようになった経緯と、初めてライブを観に行った時の様子が書かれていた。
作品名:オルコンデリート(後編) 作家名:佐藤英典