オルコンデリート(後編)
(比留間)「え?誰ですか?その人は。どこに居るんですか?」
(鱒田)「カメラの横っちょの方にいます」
(比留間)「ちょっと、そこの人、来なさい!ダメじゃないですか、先に聞いたら」
カメラの脇を横切って現れたのは、マネージャーの久坂だった。メンバーに取り囲まれて、照れ臭そうにカメラに向いている。
(比留間)「マネージャーの久坂さんです~。我々とはもう十年も活動を共にしてくれています。五人目のピカンテと言っても間違いないですね。久坂さん、一言!」
(久坂)「え、あ、はい。えーと。あの~。最高です」
(一同)「何が?」
(久坂)「全部最高です。今までで一番最高の作品です。ありがとうございます」
久坂は恥ずかしさのせいか、涙目になっている。
(比留間)「誰にお礼を言ってんだか(笑)。そんな訳でピカンテのニューアルバム『ユニヴァース』、よろしくお願いします~。ピカンテでした~」
(一同)「サヨナラ~」
そして、エンドロールが流れ、DVDは終わった。エンドロールにはスタッフの配慮からか、久坂もピカンテのメンバーの一員としてクレジットされていた。最後のサヨナラが、三棚井には別離の挨拶に聞こえて仕方なかった。
三棚井はカバンの中の名刺入れを取り出して、パソコンの前に座った。久坂の名刺には、自身のブログのアドレスが載っている。ブログを見れば何か分かるかも知れない。そう思い久坂のブログを確かめてみた。
更新は一ヶ月前で止まっていた。最新の記事には、アルバムのレコーディングが大詰めであることが綴られている。その他の記事を探ると、新しいカフェを見つけたとか、映画を観に行ったとか、メンバーで鍋をしたとか、ごくありふれた内容だ。更新頻度は月に2~3回程度で、そう多くはなかった。記述の歴史を遡って行くと、一番最初の記事に辿り着いた。『はじめまして』で始められた記事は今年の元旦であった。目ぼしい情報はない。
作品名:オルコンデリート(後編) 作家名:佐藤英典