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オルコンデリート(前編)

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下尾辻は手元の調書から目線を上げた。三棚井を真っ直ぐ眼鏡越しに見た。緩慢な喋りでトロいオッサンだなと思っていたが、力強い眼差しをしている。
「何ですか?俺が何か疑わしいとでも?」
「いえいえ、トンでもないですよ~」
下尾辻は目尻を下げて、ニッと愛想笑いをした。
「いや~、今日同席していたということで、何か気になることでもあればと思って、お伺いしているまでです~」
「気になるも何も、何が起きてるんですか、詳しく教えて下さいよ。五人はどうなったんですか?久坂さんはどこに行ったんですか?どうなってるんですか」
にわかに謂れのない嫌疑を掛けられたような気がして、三棚井は少々口調を強めた。
「いや~、すみません。まだ確証がある訳ではないんですが~、五名の方は何か薬物を飲まされた可能性があるんです~」
「薬物ですか?」
「ええ、五名の方が弁当を食べた直後に倒れたので、弁当の中に何かを入れられた可能性があります。まだ、検査結果が出ていないので、断定は出来ませんが~」
「弁当。でも、共通して食べたものが弁当だけとは限りませんし、食あたりということも」
三棚井が言い終わる前に、下尾辻は遮った。
「聞いて下さい。食中毒なら、同じ弁当を食べた別室にいた他の方にも同様の反応があるはずです。それがないんですよね~。念のため業者に確認を取らせています。この店、都内の約百軒に弁当を配達しているのですが~、今のところ、弁当を食べて倒れたという報告は入って来ていません。それから~、病院でも検査しています。砒素系の薬物に近い症状が出ているので、概ね砒素と観て間違いないでしょう~。詳しい検査結果については、こちらも分かり次第入るようになっています~」
三棚井は息を飲んだ。
「砒素を飲まされたんですか?砒素って死ぬんですよね」
「まだ全てが確定した訳ではありませんが~、五名は危険な状態です~。通報が早かったのは幸いですが、まだ安心出来る状態ではありません。現在、五名とも集中治療を受けています~」
「死ぬんですか?」