オルコンデリート(前編)
向島がトレーを片付けて戻って来るまでの間、三棚井は考えを巡らせた。しかし何も分からなかった。
「あ、今日のインタビュー、内緒でよろしく」
「分かってるわよ。私から誰に言うっていうのよ」
「ああ、まあ、一応。社長にバレるとマズイから」
「分かってるわよ。あなたしつこいわね」
先を歩く向島の背中に着いて、三棚井は地下鉄の駅へと歩いた。
三棚井が向島の仕事を手伝っていたことは、意外な形で発覚した。ピカンテの取材に二人が訪れた三時間後、三棚井の勤めるイズル出版に電話が掛かって来た。掛けて来た相手は警察だ。三棚井の所在を確かめる連絡であった。受付が三棚井はお休みを頂いていると伝えると、大至急署まで出頭をするように、連絡を取って欲しいと告げられた。そうして、社長から直々に三棚井の元に連絡が来た。
「三棚井、今どこにいるんだ」
「今、家です」
「一人か?」
「一人です。どうかしましたか?」
「今、警察から電話があった。すぐに署に来て欲しいとのことだ」
「警察?俺、何もしてないですよ」
「お前が何かしたって話じゃないんだよ。お前、今日、ピカンテの取材に向島と行ったんだろ」
「あ、何で?え?はい。行ってしまいました」
三棚井は自分よりも社長の方が事情を知ってると察して、素直に向島との同行を伝えた。
「お前、大変なことになってるぞ、ピカンテのメンバーとエンドルフィンのギターリストが病院に担ぎ込まれた。詳しいことは警察で聞いてくれ。事件みたいだぞ」
「え!俺、関係あるんですか?」
「だから、詳しくは警察で聞け。やましいところがないなら行け。やましくても行け」
「はい、すみません」
「ピカンテに取材に行ったことだけ、確認したからな」
「はい」
作品名:オルコンデリート(前編) 作家名:佐藤英典