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オルコンデリート(前編)

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 インタビューはマスタリングスタジオで行われた。今朝まで作業が行われていた熱気を取材したいという向島の意向で、今しがた出来上がった音源について、マスタリングルームで話を聴き出すという主旨だった。インタビューは都合一時間の予定で、活動二十年間の振り返りと、その節目のアルバムについてメンバー全員から話を聴くというものだ。午前十一時から十二時までの予定で、滞りなくインタビューは進んでいた。
ところが、これからアルバムの話というタイミングで、新譜をサポートした同期のバンド、エンドルフィンのギターリストのカメモトがマスタリングルームに入って来た。予定では十四時にスタジオに来ると知らされていたのだ。
 話を聞くにはちょうど良かった。制作に携わった全ての人間が揃ったので、ここは一つ盟友のカメモトにもアルバムについての感想などを聞こうと、三棚井と向島はアイコンタクトを交わしていた。しかし、同席していたマネージャーが話の途中で割って入り、
「すみません、そろそろ時間なので、早めにお引き取りください」
とインタビューを終了させてしまった。
「あの流れは不自然でしょ。もう少し話が落ち着くまで待ってくれても良かったと思ったんだけど」
「だから、何か事情があったのよ。記事の材料には、十分の内容だったんじゃないの?足りないところがあった?」
「アルバムのこと、何も聞いていないんだよね。まあ、二十年の振り返りの話でも、十分記事にはなるけど」
三棚井は浮かない。
「だってさ、マネージャーならアルバムの話をさせた方が、バンドにも都合は良い訳じゃない。なのになんで?あれはカメモトが来たからなんじゃないかな。しかも予定より早く」
「こだわるわね。そんなに聞きたいなら、またセッティングするわよ」
「そうじゃないんだ」
向島は繰り返し疑問を口にする三棚井にイライラした。結局どうしたいのかが分からない。
「そうじゃない。何で俺らを帰したのかが、気になるんだよ」
「何か分からない事情があるのよ」
そう言って、コーヒーカップと灰皿の乗ったトレーを持って立ち上がった。
「もういいじゃない。行きましょ」