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オルコンデリート(前編)

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二人は元々同僚であったが、向島は五年前に三棚井の勤める出版社を辞め、海外アーティストの情報を中心に扱う他誌に移った。今回は国内のバンド事情に明るい三棚井に、取材同行をお願いしたのだ。
「自分のところで国内アーティスト出来ないんだったら、取材なんかしなきゃいいのに」
「だって、二十年でしょ。いいネタじゃない」
「まあ、なるべく明日までにやってみる。連絡しなかったら一週間後と思ってよ」
「明日ね。明日の連絡で待ってるから。文字量はそんなにないからすぐ出来るわよ」
「じゃあ、自分でやって。いっつもそうやって簡単に言うけどさ」
「ごめんなさいね。早く頂けたら嬉しいなあって思ってるのよ」
向島が同じ誌面に在籍していた時も、三棚井は度々仕事を手伝わされていた。向島の方が先輩ということもあって、入社当初、幾分聞き分けを良くしていたら、そのままの関係で来てしまったのだ。今回のピカンテ取材も社に分かると面倒なことになる。向島の退社はあまり円満なものではなかった。社長が何て言うか。三棚井は向島の頼みを断り切れない自分を恨めしく思った。
三棚井は口元を歪めてみせた。しかし、向島は上目遣いで両手を合わせた。
「あ、そう言えば、さっきマネージャーの人、変なこと言ってなかった?」
「え、マネージャーの久坂さんでしょ?何か言ってた?」
向島の覗き込むような眼差しを見ていたら、三棚井はふと『ピカンテ』のマネージャー久坂のことを思い出した。久坂も向島と同じくらいの歳だろうかと、その顔が脳裏を過ぎったのだ。
「インタビューの途中で部屋に一人入って来たでしょ」
「ええ、同期のバンドの『エンドルフィン』のギターのカメモトでしょ」
「そう。その人が入って来たら、話も途中だったのに急にあのマネージャー、インタビューを終了させたじゃない」
「時間が押してたんじゃないの?」
「そうだろうけど、インタビュー終了の予定時間より早いのに、早めにお引き取り下さいって言ったんだよ」
「ええ、だから急いでたんじゃないの?」
「そうかな?」