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しーちゃんのこと

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 彼女は僕のことを自分のように喜び、そして苦しみが晴れたことを喜んで涙を流してくれた。僕みたいなモンに、泣く人がいるのかと思うと、嬉しくて。お店に通う日々が何をもたらすのか分からなかったが、僕はとにかく泣いて喜んでくれる人がいることに感謝した。そして、来る度に新しい報告が出来るようにがんばろうと、固く誓った。

 でも、こんなことをいつまでも続けていても仕様がない。こんな関わりはいずれ終わらせなければならない。そう大げさなものではないが、彼女がお店を辞めるか、僕が通うのを止めるか、それ以外に関係の終わりはないのだ。
 若ければ盲信的に未来が続くことを信じることも出来る。でも、僕はもう、そう若くはない。慎ましやかでも家庭を持ち、家族を養うことが真っ当ではないだろうか。そんなことをぼんやりと考えていたある日のこと、突然両親に帰省を命じられた。過去に両親から生活の干渉を受けたことはなかった。 しかし自分も若くないことを認めざるを得ないし、今さら帰れる場所があることも幸いに思えるようになっていた。このままダラダラ生きてみても仕方ない。決心して帰る覚悟を決めた。恐らく1度地元に帰ってしまえば、2度と都会に出ることはないだろう。そうして、しーちゃんとのお別れをすることに決めた。
 折りしもしーちゃんもお店を退くことになったらしい。そのことを彼女が書いているお店のブログで知った。
「来月から、しばらくお休みするかも知れません。詳しいことはまだ分かりませんが、働ける限りがんばります」
作品名:しーちゃんのこと 作家名:佐藤英典