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しーちゃんのこと

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そして彼女はとにかく明るく、遊びよりも普通に話していて気分が良かったのだ。何を手土産に買っていっても喜んでくれるし、仕事の話をしたって真面目に聞いてくれた。キャバクラなんか行ったって、自分の話しかしない娘もたくさんいる。いや、キャバクラの場合はそういうパターンがほとんどだ。気が利かないという印象がある。そんなのと違って、しー ちゃんはいつも気持ちの良い時間を提供してくれていた。
 そんな彼女とのお店での付き合いも1年以上になる。まさか自分でも、こんなに1人の嬢と遊ぶとは思っていなかった。入れ込んでいるといえば、入れ込んでいる。しかし時が経ってみると、形こそ相応しくないものの、1人の女性と時間を共有している感覚があるのだ。
 この1年を振り返ると、忘れられない思い出があった。彼女はもう忘れているかも知れないが、僕が随分長い間仕事でうまく行っていなかった頃のことだ。なかなかうまく行かず仕事の愚痴をたくさん聞いてもらっていた。それがある時に、まるで雲が晴れるようにうまく行き出し、その成果を踏まえて報告に行った。きっと彼女なら喜んでくれるに違いない。きっと笑顔で話を聞いてくれるだろう。そう思って、彼女に仕事の話をすると、彼女は変わらずウンウンと言って話を聞いてくれていたのだ。ところが突然泣き出してしまって、いったいどうしたのだろうと心配した。彼女はそのとき、こう言ってくれた。
「よかった。ホントによかった」
そう言って涙を流してくれたのだ。
作品名:しーちゃんのこと 作家名:佐藤英典