有馬琳伍氏の悲劇、もしくは24人の客
H博士の健康診断と監禁
ホットチョコレートに、夜のお供のお菓子たち。そして、お気に入りの椅子と毛布。私の冬の夜長の読書タイムの準備は上々。さぁ、読書の海に乗り出そうとした時だった。
とんとん、何の音。扉を開けると、扉の向こうには白衣の天使と白衣の医者。どうやって、四階まで持ってきたのかリアカーには健康診断をするような用具でいっぱい。白衣の天使と白衣の医者は、呆然としている私を無視して手馴れた様子でリアカー一杯の用具を私の部屋に設置しだした。いったい、これは何事。抗議しようにも、私の喉は壊れたように声は出ず、丘に上がった魚のようにぱくぱくと空気を吐き出すだけだった。無言で黙々と用意をする白衣の天使と医者。あっと言う間に私の部屋はひとつの病室のようになってしまった。
「では、健康診断を始めましょう」
「はい、健康診断を始めましょう」
白衣の医者と白衣の天使は歌うように口々に言うと、無理やり私の健康診断を始めてしまった。私の意志など、怒涛のような津波の前にはないにも等しいみたいである。血圧測って、あら血圧は思ったより低いのね。注射器を血管に刺し、あら血管がなかなか見つからないわとやりなおし。ではでは、ここいら辺かしらと言いつつ再度針を刺す。身長測って、去年より低くなってないかしら。(去年の記録はどこぞ)牛乳をちゃんと飲まなきゃ駄目よ。体重量って、ノーコメントにしておくわ。ここで、登場するは手品のようにどこからか取り出したる見たこともない機械。
白衣の天使は最後に、私を上半身裸にすると色々な色の線を取り付けると、見たこともない機械の前で白衣の医者とこそこそ話しだす。こそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそこそ。
耳障りな程、二人は話続ける。何かあったのだろうか?
「はい、結果が出ました」
「はい、結果がでました」
ふたりはくるりとターンして、両手を開いてポーズを取る。どこまで本気でどこまで冗談だかが解らない。白衣の天使と白衣の医者はそれこそ拍手をしたくなるようなユニゾンで私に告げた。
「検査の結果、貴方は入院です」
それから、白衣の天使と白衣の医師は私の家に居座っている。どうやら、彼らに取って私の部屋は彼らの病院の病室になってしまったらしい。迷惑極まりない。そして私は考える。彼らは来年の今頃に検査をして、もし私が正常だったら出て行ってくれるのだろうか。それは、永遠の謎なのである。
作品名:有馬琳伍氏の悲劇、もしくは24人の客 作家名:ツカノアラシ@万恒河沙