有馬琳伍氏の悲劇、もしくは24人の客
C女史の冒険と月夜
今日は、満月。血のように赤い満月が夜空に浮かんでいた。こんな夜は怖いから、お部屋に閉じこもっておりましょう。お部屋に閉じこもって、ノックされても扉を開けてはいけません。
橘千尋女史は、捕食者のハンターである。和製シルヴィ・ギエムと言って良い容姿に、背広姿がなかなか格好良い姿をお持ちのお人であった。お仕事の内容は、お電話一本で、用心棒から殺戮まで何でも致します。因みに捕食者とはこの世にあらざえる者たちの事である。捕食者達は、人間を食するのを好む。必ずしも人間が食物連鎖の頂点とは限らないのである。ある人によると、捕食者達が人間を好むのは、人間の感情の遷移が面白いからだそうである。まあ、人間がドラマや小説を楽しむように、捕食者達にも人間の感情が娯楽なのだろう。しかし、五寸の虫にも一分の魂。捕食者がいるところ、捕食者を狩るものもいる。因みに、橘千尋はこの市の守護者を自認する、とある機関に雇われているらしい。(自他ともに認めるわけではないのが、ここのポイントである)今日のお客は、美しき少女の両親。最近、娘の様子がおかしいのだと、二人は言う。殆ど眠ったままで、時折「ヘルベルト様」と切なそうに呻くのだそうである。その度に、娘の顔は紙のように白くなり、どんどん衰弱して行くのだそうである。そんな話を聞きながら、娘の部屋に案内してもらうと、そこは見事にがらんどう。娘は影形もなく、ただ窓のレースのカーテンが揺れていた。さてはて、少女はどこ?赤い月夜に誘われて、どこに逝っちゃったんでしょうか。それは、東洋の神秘だった。
作品名:有馬琳伍氏の悲劇、もしくは24人の客 作家名:ツカノアラシ@万恒河沙