有馬琳伍氏の悲劇、もしくは24人の客
R氏の恋と華麗なる失踪
アール氏が恋をした。友人に誘われ参加した「A progeny of Cain」でのことである。「A progeny of Cain」は、二十四人の会員からなり、欠員がでると新たに参加者が増えるシステムだと言う話である。会員のひとりである友人の話では、「A progeny of Cain」は貴重なワインの愛好家の集まりだと言うことだった。ワインに目がないアール氏は、友人に会員になれないかと何度も言っていたので、今回の欠員に関して友人が、アール氏を新たな会員に推薦してくれたのである。その初めての会合での事だった。友人から、会長と紹介された不比人言う名の美少年にアール氏は一目ぼれしたのである。別段、アール氏はそういう趣味はないはずだが、不比人に会った途端、魔法でも掛かったかのように身も心も捧げたくなったのである。そんなアール氏が失踪したのは、つい最近のころである
(アール氏の下の住人の友人の話)
夜、夜、夜。私は軋むような音に目が覚めた。友人のアパートに、泊まりにきた夜の事。ギィ、ギィ、ギィと微かに軋む音は階上かららしい。たぶん、天井のどこかに小さな穴でも空いていて音を伝わせているのだろう。暫くはおとなしく聞いていたのだけれど、その内耳障りになってきた。ギィ、ギィ、ギィ。私は、音の行方を追った。アパートの鉄製の階段を登る。このアパートはこの街でも古くて由緒あるアパートのひとつで、なかなか借りることができないので有名だった。階上に行くと、薄く灯りが漏れる扉がひとつ。そこから、ギィ、ギィ、ギィと軋む音と懇願と喘ぐ声が漏れていた。そっと、扉の影から覗くと、そこでは少年と少女と青年が、広いベットの上で睦み合っていた。少年は少女を犯し、青年は少年を犯す。少女は頬を染めて絶え間なく喘ぎ、少年はもっと後ろを犯して欲しいと青年に懇願し、青年は何かに憑かれたかのように、腰を揺らしながら少年を犯す。さてはて、まるでマルキ・ド・サドの世界を実地で演じているかのようなこの人々は誰。これまた、ずいぶん乱れている事でと思いつつ、私は友人の部屋に戻る。別に出歯亀の趣味もないし、ヒトの性癖に文句をつける気もない。まあ、そもそも自分もヒトの事を言える身分ではないのだが。部屋に戻る途中で、少女の悲鳴を聞いたような気もするが、確かでない。部屋に戻ると、先程まで耳障りな音が消え、部屋はまた静まり返っていた。どうやら、アレで終わりだったらしい。ふと、窓際を見ると愛人が窓際に腕を組んで立っていた。どうやら、外を見ているらしい。何かあるのだろうかと、窓際によると窓下に灯りが見えた。ひとつだけではない。白いマントのような衣服を着た集団が、たいまつを持ってアパートの庭を横切っていたのである。いったいアレは何だったのだろう。次の日、友人に上の階の住人の事を聞いてみると、有馬と言う青年が一人暮らしをしていると聞いた。小金持ちの青年で、それは羨ましい限りの悠々自適の生活をしているらしい。そういえば、いきなり扉から寝室を見られる事なんてあるのだろうか。夢でも見たかと思い始めた私の目に飛び込んできたのは、今日のニュース。少女が奇妙な失血死を遂げたと他人事のように言っているニュースキャスター。画面に映った少女は、昨日の夜階上で見た少女だった。後日、有馬氏が失踪したらしいと、友人から聞いた。
作品名:有馬琳伍氏の悲劇、もしくは24人の客 作家名:ツカノアラシ@万恒河沙