有馬琳伍氏の悲劇、もしくは24人の客
P氏の散歩と冬の書肆
P氏は散歩の途中に変わった店を見つけた。ある街角にあった、古い書店。貸本屋『世良柄野』と書かれた古びた看板。どうやら本を売るのではなく、本を貸してくれるらしい。興味を惹かれ店内に入ると、そこは本の海だった。背の高い本棚にぎっしりと詰まった、本。古びた本の背表紙には、見慣れぬ文字が並んでいた。P氏が店内に入るときの音で気がついたのか、店内にいた和服姿の少女と見間違うような少年が振り向いた。少年は奥に向かって、珍しく客が来たぞと声を掛ける。そして、いらっしゃいませと言いながら現れたのは一人の青年。少年と良く似た和服を着ていた。もしかすると兄弟か何かなのかもしれない。ここにある本は何ですか、見た事もないのですが。と、P氏が尋ねる。青年は、少し笑って、少々変わった品揃えをしていますが、結構来るヒトはいるのですよと言って笑った。そして、呪われし「アル・アジブ」に、冒涜的な「屍食教典儀」や「妖蛆の秘密」とか言う本を見せてくれた。どうやら、なかなか手に入らない本らしい。青年と色々な話しをして、P氏は帰った。数日後、P氏が同じように散歩に出たが、貸本屋『世良柄野』は二度と見つからなかったそうである。
作品名:有馬琳伍氏の悲劇、もしくは24人の客 作家名:ツカノアラシ@万恒河沙