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ツカノアラシ@万恒河沙
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有馬琳伍氏の悲劇、もしくは24人の客

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K氏の憂欝と雨と偽少年


 瀬を早み 岩にせかるる滝川の われても末に あはむとぞ思ふ
 雨、雨、雨、雨が降っていた。そして、貸本屋『世良柄野』の店主である東四柳和馬氏は呆れるほどに憂鬱だった。その視線の先には、黒い棺。
 これより少し時間を戻そう。
 窓の外はけぶるような小雨。和馬は玄関のチャイムの音で起こされた。貸本屋『世良柄野』は本日は休業開店。夢からの帰還と、人使いの荒い雇い主から解放された久しぶりの休日。しかし、夢見が悪い。いつもの淫夢。まぶたに浮かぶは少女の顔。幼い頃から、和馬の夢の中には、一人の可憐な美少女が住んでいた。夢に出てくる少女とは、会ったことも、写真等で見たことがない。記憶にない少女が、夢の中で現れるのである。最初は霞んだような夢だったが、思春期に入るにつれて、どんどん鮮明になってい行った。見知った人物ならまだしも、何故自分が見知らぬ誰かのそんな夢を見なければならないのか、未だ持って解らなかった。
 何度も鳴るチャイムに悪態をつきながら、玄関に出ると、そこには怪しげな巨漢の配達人。子供が入る位の木箱を軽々と背負っていた。器用なものである。送り主は、和馬の従兄弟の鷹司京介。闘う考古学者を自称する、やってる事は盗掘としか思えない男である。巨漢は受け取りサインを無言の圧力で和馬に書かせると、そのまま無言で立ち去った。残ったのは、なんとなく厭な気がする木箱。木箱を開けると、木箱の中には黒い棺が入っていた。ご丁寧に棺の上には、見覚えのある字で『式部水継少年の棺、生年月日XXXX年』と書かれた紙が貼ってあった。和馬は雇い主と同じ苗字に、更に厭な気がしたのは無理もない。暫く迷っていたが、観念して棺の蓋を開けることにした。そこには、死んだように眠る可憐な幻の少女の姿。放射状に広がる腰まで伸びた黒髪、頬に影を落とすほど長い睫に白い肌。セーラー襟の紺のワンピースと黒いニーソックスにワンストラップシューズ。完璧な美少女振りだが、「少年」と書かれているのは何故。しかも、生年月日が和馬よりも、何十年も早い。少年で、爺さんで、少女な人物なのか。さすがに、ふざけるなと従兄弟に電話をかけるが捕まらない。和馬は、口の中で従兄弟に向かって、思いつく限りの呪いの言葉を吐いて胸の溜飲を収めた。
そして、冒頭に憂鬱状態に戻るのである。
「眠れる森の美少女、それとも眠れる森の美少女に見える爺さん?」
 和馬の仕事上の相棒である、橘千尋は面白そうに言った。たまたま、明日からの仕事を相棒に伝えに来て、棺とご対面したのである。勝手知ったる他人の家とは良く言うもので、千尋は勝手に東四柳家の珈琲を淹れて飲んでいた。一仕事した後の珈琲は旨い。「苗字が同じなら、水乃のばーさんか、水月姫にでも聞いてみれば?名前も似ているし」千尋はつれないを絵に書いたような態度だった。「そう仰るのなら、一度、私よりも先に水乃のばーさんと、水月に借りでも作ってみてくださいよ、千尋さん」と、和馬。「あの魔女達に借りを作るなんて、ごめんだね」和馬の言葉に、やだやだ、と言わんばかりに千尋は厭な顔をした。式部水乃と水月は、恩を売るぶんには構わないが、借りを作った日には何が起こるか解らない人たちであった。たぶん、おそらく十中八九、無給で来世で菩薩が迎えに来るまでこき使われるのだろう。
「自分ができもしないことを、ヒトに進めないで下さい」
「水月姫なら、和馬のためなら飛んできて、すぐに焼却処分してくれると思うけどなぁ」
「何か論点ズレてません?それ」
 身元だけは、調べた方が良いよと千尋は言い残して帰った。それもそうだと思い、和馬は書庫に入って、暫く調べていると、棺を置いた部屋から音がした。慌てて戻ると、棺の中の水継が寝台の上にカラクリ人形のように起き上がっていた。先程の音は棺の蓋が床に叩きつけられる音だった。長い黒髪がゆっくりと肩から滑り落ちる。声を掛けようとしたが、水継の瞳の焦点があっていない、まるで夢遊病者のようである。その身体の上を、見えない手が這いずり回っている。見えない手は両足を開かせ、M字の形で棺の外に出す。開いた足の上を見えない手が、中心部に這って行くのが見える。中心部に達した見えない右手は丁寧に愛撫を与え、もう一方の手は薄い胸の突起を目指して這っていった。水継は見えない手に、好き放題に嬲られていた。快楽の虜。大きな瞳が霞がかり、トロンとしていた。可憐な唇から、喘ぎ声が零れ、眉ねを寄せ苦痛とも快楽とも解らない切ない表情をしていた。暫くして見えない手の執拗な愛撫に耐えかねて、水継は一際大きく喘ぎ、背を反らせるとと呆気なく果てる。棺の下に敷かれた布が、体液でぐっしょりと濡れていた。見えない手は、そのままスカートを引き上げ、偽少年の下半身を露にする。和馬が驚いたことに、偽少年はふたなりであった。和馬はこの場をどうにかしようかと思うが、身体が金縛りになったかのように動かない。見えない手は存在感を誇示するかのように、徐々に手先から色がつきはじめた。そして、現れるは半透明の男の背中。半透明の男は欲望の最後に向かって、水継の両足を腕に掬う。その時、金縛りにあっていた和馬の声が出た。その声に、半透明の男が振り向く。振り向き消えた。一瞬だったが振り向いたその顔は、和馬のものに違いなかった。ふたなりの偽りの少年を犯していたのは、彼。半透明の彼は、気がつくと本物の彼になっていた。事態に呆然としている和馬に水継が手を差し伸べて続きをして欲しいと甘い声でねだった。偽少年が絶頂に達した時、偽少年の唇から銀色の鍵が零れ落ちて、床にコロンと音を立てたのだった。一体、これは何の鍵。