朧木君の非日常生活(9)
『次は~終点、金縛沢、金縛沢です。お忘れ物のないよう、お気をつけ下さい。次は~終点、金縛沢です。ご乗車ありがとうございました』
電車の車掌さんが降車駅であることを教えてくれた。
「本当に久しぶりだね、蜻蛉さん」
「懐かしさすら抱いてしまうね、朧木くん」
「私だけ仲間外れみたいだよー」
鬼火ちゃんの可愛らしい声を合図にしたかのように、電車が止まり両開きのドアが開いた。
終点に相応しいのか、否か、プラットホームは古びれていた。
古びれていたという表現は、俺と蜻蛉さんが以前ここに来たときと比べて、という意味ではない。
俺と蜻蛉さんからしたら何も変わっていない。
あの時から何一つ変わっていない。
懐かしさに胸を踊らせる訳でもなく、躍らせる訳でもなく、馳せる訳でも高鳴らせる訳でもない感情。
哀愁、慈愛、邂逅、どんな言葉を使っても表現出来ない想い。
蟠り、なんなんだろう。
作品名:朧木君の非日常生活(9) 作家名:たし