影の世界
何故1000年以上の時を生き、なおかつまだ10代後半の外見をしているディー
にコウモリたちは近づかないのか。
コウモリたちの誇りは、より有能な力ある主人に仕えることだ。
それならば、王族であり、更に未知数ながら力もあるはずのディーに使えることに
何の不満があるのだろうか。
「まぁ、いままで駄目だったのに今日すぐにコウモリが懐いたら
都合よすぎるよな。……疲れただろ? 今日は帰ろう」
ライアスに促されてディーはしぶしぶ『黒い羽根』を出る。
あぁ、やっぱり駄目だったのか。
そんな周囲の反応にディーは少し落ち込みながらも、隣を歩いている初めての
友人を見て微笑んだ。
※※※※
翌日、吸血鬼の試練について一から確認することに
したディーとライアスは図書館に来ていた。
この図書館は吸血鬼がすむ世界唯一のもので、他の種族が住む世界へ
自由に行き来できない一般の吸血鬼たちにとって貴重な情報源となっている。
「その1、コウモリを使い魔にする」
ライアスが本を見ながらディーに言う。
図書館なので声の音量はかなり抑えてあるが。
「使い魔ってことは、手下とかそういう意味だよね?」
ディーは椅子に行儀よく座って真剣にライアスの話を聞いている。
「いや……どうだろう。そういう奴もいるけどさ、俺は手下とか
そういうのじゃなくて……パートナーとか、そんな風に思ってる
ぜ」
一生に一匹の使い魔。
たくさんのコウモリを使役することは可能だが、正式な契約を交わすのは
ただ一匹。
「なんかいいな。そういうの」
「ディーにもちゃんとパートナーができるさ。さて、次は――」
ライアスはぱらぱらと本のページを進める。
「あ、あった。その2、コウモリに変化する」
しげしげと本を読みながら話すライアスに、ディーはじぃっと眼を細めた。
「……ちょっと思ったんだけど、ライアスもこの試練やったんだよね?」
ライアスはなんともいえない表情になる。
「もちろんやったさ……何百年も前に。正直、あんまり覚えてないんだ。
でも、しっかりディーのお手伝いはしてやるから大船に乗ったつもりで、な!」
確かに何百年も前のことだ。すぐにそのときのことを思い出せといわれても
どうしようもないだろう。それでもなお、手伝ってくれると言ってくれている。