影の世界
遅くても500歳までには修行を終えているのが当たり前で
あり、それができない者は出来損ないとして迫害を受けた。
無論、その歳になるまでに一人前になれない者は吸血鬼とし
ての力が薄く、寿命も短い。吸血鬼の力が強ければ強いほど
寿命は延び、それと同時に外見も老けにくくなる。
実際、王であるウィリアムは2,000歳をとうに超えているが、
外見だけを見ると40代前半といったところだろうか。
「父さん……僕は……」
仕方なくここに来ているんだ、という吸血鬼の態度に潰され
そうになりながら、ディーは父を仰ぎ見る。
偉大な父。
何万年という長い吸血鬼の歴史の中でもこれほどの力を持つ
ものはいないといわれるほどの父。
その姿はディーには大きすぎて――
「ディアボロス……ディー。お前がどう感じているのかは
わからないが、私はお前に期待しているのだ。そうおびえるな」
王の言葉に他の吸血鬼たちがざわめいた。
眉をひそめては、ディーのほうを見てあざ笑う。
こんな子にそんな期待をかけるだけ無駄だ。
はっきりとは言わない。
あくまでディーは王の息子だから。
でも、実力の無い者に吸血鬼たちは冷たい。
ヴァン・K・ディアボロス――稀代の王から生まれた、類まれ
なる落ちこぼれ。
ざわめきは次第に大きくなりディーに重くのしかかる。
そんな言葉聞き慣れてる。
何百年も言われ続けてきたから。
でも、聞きたくない。
だから、他の吸血鬼たちとの交流を出来る限り避けてきた。
部屋に閉じこもって、早く自分が消える時を待っていた。
時を忘れて、静かに生活していたかっただけなのに。
どうして放っておいてくれないのか。
ディーは、もうこれ以上聞きたくないと両手を耳に持って
いこうとした。
とそのとき、
『黙れ』
不思議な響きのある声が宴の開かれている広場全体に広がる。
吸血鬼たちはぴたりと話を止めた。
いや、止めさせられた。
「お前は、自分のことを出来損ないだと思っている。そうだ
ろう?」
しん……となった広場に優しげな声が響く。
「……」
無言でうなずくディー。
「そして、皆もそう思っている……が、私はそうは思わない。
何故だかわかるか?」
最初、広場に呼ばれて掛けられた高圧的な声とは全く正反対の
声。