影の世界
無邪気な行動が整った外見からくる近寄り難い雰囲気を見事
に消し去っていた。
……外見など、この世界においては何の意味もなさないもの
だが。
「では、行きましょう」
リアはディーの姿を一目見ただけでそっけなく顔を背けてす
たすたといってしまう。
そんなリアの態度を少し寂しく思いながら、ディーはその後
を追いかけた。
☆2/25
※※※※
「ようやく来たか」
威厳のある声が広場に響く。
「遅くなってすみませんでした」
感情の無い声で返事をしているのはディーだ。
月明かりにぼんやりと照らされる広場。
広場には中央にいる2人の人物を囲むように大勢の吸血鬼
たちが集まっていた。
「……まぁ、いい。見ての通り、今宵はお前のために宴を開
いた。存分に楽しむがいい」
ディーは信じられないといった眼で、ディーの父であり、そ
してこの世に存在する吸血鬼たちの頂点に立つ男を見た。
怜悧な顔をした王……ヴァン・K・ウィリアムは温かみのある
微笑みをその顔に浮かべ、ディーを見つめていた。
ディーとはあまり似ていない。
「……何故、急にこのような宴を?」
「何故か、だと? おかしなことを聞くものだな。
息子の誕生日を親が祝うのに理由がいるのか?」
「!?」
目を丸くしたディーは戸惑いながら周りを見渡す。
普段は自分の存在など意に介さない吸血鬼たちが自分のこと
を見ている。
でもそれは、王に命令されたから。
ただそれだけのこと。
この中に自分のことを知っている吸血鬼はどれほどいるのだ
ろう。いるとしても、自分のことをどう思っているかなんて
……考えたくもない。
ディーは冷静に考える。
出来損ないの自分に誰が関心を持つだろう。
王の長男でありながら、コウモリ一匹すら支配できない
落ちこぼれ。
吸血鬼の社会は実力主義だ。
王、四天王、一人前の吸血鬼、見習い、チャイルド……。
吸血鬼は大まかにこのように分類される。
吸血鬼の寿命は1,000歳前後。
200歳まではほとんどの吸血鬼が『チャイルド』に位置する。
チャイルドは、まだ一人前になるための修行を始めていない
ものを指している。
そして修行中の吸血鬼を見習い、修行を無事終えたものを一
人前と呼ぶ。
大体の吸血鬼が400歳までに修行を終え、一人前になる。