影の世界
その優しさにつられてディーは口を開く。
「僕が……父さんの息子だから?」
有能な自分の息子であるディーが出来損ないだなんて認めたく
ないからそう思っているのだろうか。
一人前になるための試練を何一つクリアしていない自分が出来
損ないでないのなら、一体どんな奴が出来損ないといわれるの
か検討もつかない。
「……そこまで親馬鹿なつもりではないつもりだが」
王である前に一人の父親であるウィリアムは苦笑する。
☆2/26
「そうだ、ディー。お前は今何歳だ?」
急な質問にディーは顔をしかめる。
歳なんて、落ちこぼれだと言われ始めた500歳を超えたところで
面倒になって止めてしまった。
「数えて、ない」
気まずそうに答えるディーに、ウィリアムはにやりと笑う。
怜悧な顔に似合わないいたずらな表情だ。
「お前の弟のクラウスはもう死んだぞ?」
身内の死をどう捉えているのか、ウィリアムに、もう一人の
息子の死を悲しむ様子はない。
「………………」
会話の流れが掴めていないディーは首を傾げる。
「クラウスはなかなか出来た息子だったから……そうだな、
1000歳は超えていた」
その言葉にディーはようやく父の会話の意図が掴めた。
「僕が……1000歳を超えてる?」
自分に問いかけるような呟きにウィリアムは答える。
「そうだ。お前が出来損ないなら当の昔に死んでいるはず
だな」
その言葉にディーより早く反応を示したのは、周りで会話を
聞いていた吸血鬼たちであった。
戸惑いの表情を隠せない。
時間の感覚に疎い吸血鬼たちは、『落ちこぼれ』のレッテルを
貼られている『王の息子』という姿のみを見て、事実を見てい
なかった。
本人自体知らなかったのだから、皆が知らないのも無理のない
話なのだが、『落ちこぼれ』の定義を年齢で決定する割に、年
齢に対して無頓着であった。
「これで、わかっただろう? お前は他より成長に時間がか
かっているだけだ。……だから、今一度がんばりなさい。どんな
力ある吸血鬼でも怠けていては、一人前にはなれないのだから」
「父さん……」
ディーは今にも溢れてきそうな涙を懸命にこらえる。
人前で簡単に泣くなんて、情けないにも程があると
ディーは思いっきり顔を左右に振って涙を無理やり押さえ込んだ。
何故、父親が宴を開いたのか。