アオイホノオ―終末戦争―
第一話「第156A.M.A.T.A小隊」
鬱蒼としげる富士の樹海の木々の中を駆けて行く兵士達。その後を怪物達が追いかけていく。
兵士達は銃を撃ちつつ逃げるが簡単な足止めにしかなっていないようだ。
「思ったより足が速いな、このクソ虫どもめ!」
そう言うとショットガンを一番先頭の敵の脚に向けて撃つ。さすがに脚への直撃には怪物は耐えられなかったようでバランスを崩すと木に激しくぶつかり転倒。後続の怪物達もスピードを抑えられずに転倒している怪物に躓き倒れていく。だが、すぐに立ち上がりまた追跡を開始する。
兵士と怪物達の距離は先ほどよりは開いているものの気休めにしかならないだろう。
「ふぅ、プラズマ撃つ個体がいなくて良かったよ」
走りながら兵士の一人がそう呟いた。彼が言うのはプラズマ弾発射型個体のことである。プラズマ弾はE.Lとの戦闘で苦しめられている要因の一つである。凄まじい熱量を持つ弾を撃たれたのでは生身の兵士、対プラズマ用コーティングがなされてない兵器ではとても太刀打ちできないのだ。
今、兵士達を追っている無数のE.Lは近接戦闘型個体であり、飛び道具の様な大層な物は持っていないタイプである。それでもその巨躯から繰り出される力は馬鹿にできないのは事実だ。
「合流地点まであと少しだ!急ぐぞ」
「おう!」
怪物達との距離を上手く取りながら兵士達は駆けて行く。
そして、森の開けた場所に出ると目の前の地面にある亀裂のような大きな窪みに兵士達は真っ直ぐ滑り込んだ。
その後を追ってきた怪物達も森から次々と飛び出してくる。
「目標確認、各自攻撃開始!」
低く渋い男の声が響く。
次に響くのはキャノンやミニガン、ライフルが奏でる交響曲。
不意を突かれた怪物達は混乱を来たし、その場で激しく動き回るが逆に身体の面積の広い部分をさらす事になり、その身に多数の銃弾や砲弾が襲いかかる。
怪物達の悲鳴の様な叫びが上がるがそれにも構わず次から次へと容赦なく弾が浴びせられていく。黄色い体液や甲殻の一部、内臓などを撒き散らしながら怪物達は倒れる。
辺りが怪物達の死骸で埋め尽くされると射撃は止められた。
それでも幸運な個体もいたようで弾丸の雨をなんとか生き延びた三匹がいつの間にかに森の中へと逃げ込んでいた。
だが、それを取り逃がす程甘く作戦を立てているはずがない。
生き残った怪物達は目の前に二人の人間がいるのをその目に捉える。身長は2mを越え、その身体には分厚い装甲を纏っている。二人の左肩には第156A.M.A.T.A小隊の黒狼のエンブレム。
そう捉らえた瞬間、一人が動いた。
刹那、大きく前へと跳躍すると両手に持った二本の剣を振りかざす。
次に上がるのは黄色い血しぶきだ。怪物は胴体を二つに分断されそのまま崩れ落ちる。
残りの二匹はそれをただ見る事しかできない。今置かれている状況を判断し、直ぐに逃げようとするがそれは赦されなかった。
振り向いた先にはもう一人の巨人。その右手にはグレネードランチャーが握られている。その振り向いた怪物に得物を突きつけると引き金を引いた。近距離で甲殻の隙間を狙って撃ち込まれた弾は体内の奥深くに入り込み炸裂する。怪物は血を撒き散らしながらそのまま大きく砕け散った。
次に左手に握っていたショットガンを片手で構えると発砲、最後の一匹が倒れこむ。そこにコッキング、弾を薬室に送り込み更に数発弾を撃ち込むと絶命する。
「終わったな……」
バイザーを戦闘モードから探索モードに切り替え広域の捜索を行う。しかし、レーダーにはE.Lらしき反応はない。作戦は成功、敵部隊は殲滅というところだろう。
周りの安全を確認しながら、グレネードランチャーに弾を込め背中にかけた。
「こっちも大丈夫ね」
この惨状には似合わない静かな可愛らしい女性の声が飛んでくる。
彼女は山尊陽菜(ヤマノミコト・ハルナ)である。俺が配属された第156A.M.A.T.A小隊のメンバーの一人である。
その卓越した格闘センスには度々驚かされるが今回もたった一撃であの巨躯を沈めるという活躍をしてくれた。あのスーツの下の可愛らしい顔を見たらとてもそんな事はできそうとは思えないのだが、などそんな暢気な事を頭の中で考えていたら陽菜が声をかけてきた。
「隊長のところに戻ろっか、小波 優(サザナミ・ユウ)上級曹長?」
「そうだな、ガルシア隊長達が待っている」
そう優が返すと二人は歩き出した。
森から出てくると兵士達が虫の息の個体に止めを刺す作業に入っているのが見えた。あれだけの弾を浴びたのに生きているのもいるというのが驚きだ。そうでなければここまで人類側が苦戦を強いられる事もないのだろうとも思いつつ隊長の姿を探す。
辺りを見回すとその現場から少し離れたところで赤黒い巨大な装甲服を纏った巨人が立っている。あれが俺たちの部隊の隊長ガルシア・ヒルデグリム中尉だ。彼の足元には先ほど使っていたミニガンやキャノンなどが煙を吐きながら置かれている。俺や陽菜のA.M.A.T.Aでは両方同時に扱うなどできる代物ではない、あまりにも人工筋肉のパワーが足りないからだ。だが、ガルシア隊長のA.M.A.T.Aである「リディル」はそれが出来るほどのパワーを兼ね備えている。勿論そのおかげで「リディル」は他のA.M.A.T.Aを越える巨体と重量を得る事になってしまったのだがそこは仕方ないのだろう。
陽菜と優に気づいたガルシアはこちらに右手を軽く上げる。
「二人とも戻ったみたいだな、トリスとタカノの方は偵察先からそのまま次の作戦に向かう。俺たちも行くぞ。」
ガルシアはそう言いながら地面に置いていたキャノンを肩に担ぎ、ミニガンを持つと後片付けを終えた兵士達に指示を一通り出す。そして二人に顔を向けた。
「ここから少し先に行った旧市街地にて熱海方面へ移動中だった3個中隊が敵の抵抗にあって進めないようだ。俺たちはこれからそっちの救援に向かう。補給は輸送機内で受ける事になるからな。」
「敵の規模は隊長?」
陽菜は尋ねる。
「数の方は分からんが近接戦闘型、プラズマ弾発射型、飛行型、飛行輸送型の固体が確認されているようだ。どうも味方は敵の侵攻部隊とぶつかったみたいだな」
「となると3個中隊での相手は中々難しそうですね……」
数は分からなくても敵の編成から予想できる数は恐らく千は超えている。それを自分たち援軍を含めて数百人程度で抑えきるのにも無理があるのは明白だ。優はそれを念頭に置きつつ次の戦いへの覚悟を決める。
他には作戦の内容の確認、使用する火器の選定、トリスとタカノを含めた現地到着後の動きの確認などを行った。
その後、三人は到着した輸送機に乗り込む。輸送機内には既にA.M.A.T.Aの整備班が待機しており、三人が装甲服から出ると急ピッチで整備が始められる。装甲の各部に充電用ケーブルや人工筋肉に溜まった老廃物を排出するチューブなどが手際よく差し込まれていく。
その様子を隅に設けられたベンチ、仮設の休憩所でサンドイッチを齧りながら三人は見ていた。油や汗、火薬の臭いが充満するなかでそんなものなどとても食べられたものじゃなかったが今食べなければしばらくご飯にはありつけないのだ。優は吐き気を抑えつつサンドイッチを口に詰めて水で流し込む。
作品名:アオイホノオ―終末戦争― 作家名:ますら・お